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はないたちの夜page5

1 :おいら名無しさんヽ(´ー`)ノ:2008/07/05(土) 00:39:46 ID:JnfNZlq6



   この作品はフィクションです。
   実在の人物・団体・事件などには、いっさい関係ありません。





2 :まりあ ◆BvRWOC2f5A :2008/07/05(土) 00:41:42 ID:???
   11.どっちかというとリンゴジュースの方がいい



「若い者同士で親睦を深めて貰おうと思ってね。私が呼んだんですよ」

座玖屋は豪快に笑って、鈍堕華の肩を叩いた。
既に酔いがまわっているらしく顔が赤い。
テーブルを挟んでその反対側に座っていたノワは顔色こそ普段通りではあったものの、
口元はいつにも増してだらしなく緩んでいた。もうそこそこに出来上がっているらしい。
酔っ払いどもめ。

鈍堕華は座玖屋の隣に座っていたが、やたらと陽気な二人とは対照的に
顔をしかめて全身から陰気な雰囲気を漂わせていた。

「いつから飲んでたんだ」

僕はノワの隣に座布団が敷かれていたのでそこに腰を下ろす。

3 :まりあ ◆BvRWOC2f5A :2008/07/05(土) 00:42:38 ID:???
「あぁ、えぇ……4時ぐらいからかな。夕方の」

陽が落ちる前からか。
どうしようもないのんだくれっぷりだ。
というかそんなにも座玖屋と打ち解けているお前にびっくりだ。

「いやぁ、まぁ、あれだな、九州。せっかく同盟を結んだんだから
 もっとあれだ。あれしないとダメなんだよ」
「なに?」
「……あれだよ」

ノワの目は僕を捉えていない。
本当にどうしようもない。

「さ、九州さんもどうぞ」

目の前に置いてあったコップになみなみと酒が注がれる。
座玖屋は満面の笑みを浮かべていたが、
こちらはちゃんと僕の目を見ていたのでテンションのわりに意識はしっかりしているようだった。

4 :まりあ ◆BvRWOC2f5A :2008/07/05(土) 00:43:42 ID:???


くさい。
日本酒の独特な臭いに思わず呼吸が止まる。

「おい、九州。お前は飲むな」

僕がコップの中でゆらゆらと波打っている液体を見つめているとノワがぐいっと顔を近づけてくる。
当然のんだくれのこいつの口からも同じ臭いがするので僕は息を止めたまま顔を背けた。

「おや、もしかして九州さんは下戸ですかな」

と、座玖屋。
すると僕を差し置いてノワが勝手に返事をする。

「こいつに飲ませるとろくなことがないから」

黙れ。
なんだか馬鹿にされているような気がして腹が立つ。

5 :まりあ ◆BvRWOC2f5A :2008/07/05(土) 00:44:47 ID:???
「ほら九州、そのコップを貸せ。俺が飲んでやる。お前はオレンジジュースもらえ」

酒の勢いというのは恐ろしい。
ノワのくせにこんな調子づいた発言をしてしまうのだから。

しかしいくら酒の所為とはいえ、ノワ如きにおちょくられるのは我慢ならないので
僕は一気に酒を飲み干してやった。


──確かこの時、きらたまが気まずそうに鈍堕華の隣でぽそぽそと箸を進めていたような気がする。
朧げながらもここまでは記憶がある。

僕が頭痛と共に目を覚ましたのは日付が変わった頃だった。






6 : ◆K.tai/y5Gg :2008/07/05(土) 00:46:06 ID:???
なにこの>>1

7 : ◆K.tai/y5Gg :2008/07/05(土) 00:47:54 ID:???
あ、ここまでか

8 :ニコフ ◆nikov2e/PM :2008/07/05(土) 00:48:36 ID:???
飲んだんかい

9 :まりあ ◆BvRWOC2f5A :2008/07/05(土) 00:50:04 ID:???
   12.黙示録で終わっとくのもアリだったと思う



結局俺は何をしに家を出たのだろうか。
アホらしくなるので真面目に考えるのはよそう。

家に戻ると母ちゃんは帰って来ていた。
明日保護者説明会があるとかなんとか。あっそう。

「ジニ君が心配してたわよ」

それもあっそう。
何故かあまり詳しく聞く気になれなかったので俺は母ちゃんが話し終える前にさっさと二階へ上がる。

「電話ほしいって言ってたわよ」

階段の下から母ちゃんはでっかい声で言うが無視。
なんで俺は聞こえないふりをするのだろう?

10 :ニコフ ◆nikov2e/PM :2008/07/05(土) 00:50:50 ID:???
カイジ批判か

11 :まりあ ◆BvRWOC2f5A :2008/07/05(土) 00:51:40 ID:???


   ◆


それから数時間。
とうとうカイジも現在出ている最新刊まで読み終えてしまった。
罪と罰はやっぱり読んでない。

「晩御飯よー」と俺を呼ぶ母ちゃんの声を聞いた途端、いきなり腹が鳴り出す。
そうだ、そういえば俺は腹が減っていたのだ。

晩飯は至って普通の晩飯だった。
普通にオフクロの味。

「あんたジニ君に電話してあげなさいよ」

洗い物をしながら母ちゃんは言った。
俺は返事をせずきゅうりの漬物をかじる。

12 : ◆K.tai/y5Gg :2008/07/05(土) 00:51:47 ID:???
ジェノターンは今昼?

13 :ニコフ ◆nikov2e/PM :2008/07/05(土) 00:52:55 ID:???
新潮文庫の方はいくらか読みやすいから安心して嫁

14 :まりあ ◆BvRWOC2f5A :2008/07/05(土) 00:53:56 ID:???
その時、点けっぱなしのテレビでは9時のニュースが始まったところだった。
俺はチャンネルを変えようかどうか迷う。
何のニュースが流れるかなんてわかりきっている。

『こんばんは』

初老のメインキャスターがカメラに向かって頭を下げて番組開始。
番組は冒頭から例の事件を取り上げた。

現時点までに判明していることが淡々と読み上げられ、俺は嫌でも
事件の概要を整理させられる。

被害者は俺のクラスメイト、サチコさん。
犯行現場はうちの学校のすぐ傍(と、みられている)。
遺体が発見されたのは昨夜午後11時頃。
第一発見者は近所に住んでた会社員の男性。
道端で血を流して倒れているサチコさんを発見し、警察に通報。
ここまでは既に知ってる。

15 : ◆K.tai/y5Gg :2008/07/05(土) 00:56:24 ID:???
死因か!

16 :ニコフ ◆nikov2e/PM :2008/07/05(土) 00:56:40 ID:???
土筆轍爺です

17 :まりあ ◆BvRWOC2f5A :2008/07/05(土) 00:58:09 ID:???
死因について。

──頸動脈切断による失血死。
凶器は見つかっていないらしいが、刃物で首を切られた可能性が極めて高く、
ほぼ即死だったと見られている、とのこと。

俺は口の中に残っていたきゅうりを飲み込んで箸を置いた。

警察はキリサキマサキによる犯行とみているらしい。
俺もそう思う。みんなそう思っているだろう。
そして同時にこう考える。

どうせ今回も捕まらないのだろう、と。

何しろ俺が幼稚園の頃から今まで犯行を重ね続けているような奴なのだ。
そう簡単に捕まるとは思えない。

18 : ◆K.tai/y5Gg :2008/07/05(土) 00:59:51 ID:???
そうくるか

19 :ニコフ ◆nikov2e/PM :2008/07/05(土) 01:00:17 ID:???
痛そう

20 :まりあ ◆BvRWOC2f5A :2008/07/05(土) 01:01:13 ID:???
「ごちそうさまでしたっと」

そうだ、捕まらないのだ。
キリサキマサキは捕まらない。
誰も被害者の……サチコさんの無念は晴らせない。

今年もまた数週間ほど経てば事件について触れられることもなくなるのだ。
……そう思っていたのだが。

『え……今、新しいニュースが入ってきました』

番組はそろそろ次のニュースに移ろうとしていたのだが、
どうやら速報が入って来たらしい。
ベテランのキャスターは進行が変わっても慌てることなく淡々としていたが、
速報の内容は多くの視聴者を驚かせたに違いない。

つい数時間前に、晴刷市内で首を切られた女性の他殺体が新たに発見されたというのだ。

キリサキマサキは一年に一回、一人しか殺さないはずなのに。




21 : ◆K.tai/y5Gg :2008/07/05(土) 01:02:24 ID:???
これはアレだな。ジェノへのメッセージ

22 :ニコフ ◆nikov2e/PM :2008/07/05(土) 01:02:58 ID:???
連続殺人 風味

23 :可児玉 ◆KANI/FOJKA :2008/07/05(土) 01:18:20 ID:???
上から8番目にあったので来ました。
どうもこんばんわ

24 : ◆K.tai/y5Gg :2008/07/05(土) 01:21:27 ID:???
なんかください

25 :おいら名無しさんヽ(´ー`)ノ:2008/07/23(水) 13:07:31 ID:???

     ∵∴∵         : . .. :∵..::::/U::∪:`U
    ∵∴∵∴: : . . / ̄\   ::(つ´    ヽ
. : ∴∵   ....... :  .:|  . =-―‐‐ /0      ',-,,,_  ‐-,,,_
.. : :     ....:: :: . :::::::\_,,;-‐=ニ二_{o       :}_二ニ=-‐'''~
∵     ::..::   .:::::::  | ~'''‐-  ヽ ~~"'''―-----―'''
      ∵::  :::∵/ ̄ ̄ ̄\.   |ヽ、___,.,/  ∴∵
    ∴∵::.  ::/ ::\:::::::/:::: \ /   ::/   ∵
    ∵∴:: .::::   <●>;::::::<●>  \...:∴::  これが・・・真の名・・・
  ∵:..:.: /⌒ヽ::l⌒`i (__人__)    |∵::   真の力だ・・・!
  :/⌒ヽ|  |;; ;|  | ` ⌒´    /∴:: 
 (  ヽ;;ヽ__ノ;;; ヽ__ノ ! ̄ ̄ ̄ ̄
 >‐' /´.:.:.:.::::::::::::ヽ`ト、 .:∴::  . ∴∵∴  スタークエイク!!!!
( : :/0   .:.:.:.::::::::::::', :    .. ...::∴
∵ |o    .:.:.:.:::::::::::::}: :: ..... ::∵

26 : ◆K.tai/y5Gg :2008/08/01(金) 00:55:45 ID:???
念のため

27 :まりあ ◆BvRWOC2f5A :2008/08/04(月) 22:25:05 ID:???
   - 幕間 -  


   ◆ 鬱井の場合




「あああああああああっあー! 帰りてええええええ」

椅子の上に正座した鬱井は背もたれを抱きしめるようにして体を大きく揺さぶった。

「帰りたいのにー! 帰れない〜い!」

気が付けば時刻は午前0時過ぎ。
日付変わって9月13日の月曜日、鬱井は一人、晴刷署の生活安全課で書類作成に追われていた。

「もおおおおおおおおおいーくつ寝ーるーと〜! 給ー料ー日〜!」

室内には鬱井以外誰もいない。
つまり誰も彼の仕事を手伝ってくれる者がいないのだ。
書類作成の手順はLd課長が紙に書いて渡してくれたが、
そんなものを書いてくれるなら書類の作成をやってくれればよかったのにと鬱井は思う。

28 :まりあ ◆BvRWOC2f5A :2008/08/04(月) 22:30:54 ID:???
「なにが“何事も経験だ”だよ! 出来るかっつーの! わかんないっつーの! ハゲ! ハゲ!」

鬱井は椅子の背もたれに額をこすりつけて不満を爆発させてみたが、そんなことをしても
現状は一向に良くならないということはわかっている。
しかしそれでも叫ばずにはいられない理由があった。

「んもおおおお……どうすんのさあああ。帰れないじゃん! 帰れないじゃん!
 “ローゼン閣下麻生ちゃん”始まっちゃうじゃん! 始まっちゃうじゃん!」

早く帰らないと毎週欠かさず視聴している深夜アニメが始まってしまう。
録画の準備はばっちりしてきたのだが、何かの理由でアニメの放送時間がずれてしまっていたり
するかもしれない。

なんとしてでも放送開始予定時刻までに家に帰らなければ……。
鬱井は選択を迫られていた。
明日課長に大目玉を喰らうの覚悟で仕事を放り出してさっさと帰宅するか、
なんとかして書類をでっちあげてしまうかだ。頑張って書類を完成させるという選択肢はなかった。

29 :おいら名無しさんヽ(´ー`)ノ:2008/08/04(月) 22:39:20 ID:???
ほっしゅ

30 :まりあ ◆BvRWOC2f5A :2008/08/04(月) 22:45:43 ID:???
そもそもこんなことになったのも例の事件のせいだ。
キリサキマサキと呼ばれる殺人犯が事件を起こすのは毎年のことだが、
今年は何を思ったのか、この二日間で二人も被害者が出てしまったのだ。
毎年一人しか狙わないというのが定説となっていた為、いつからか警察側もそれに合わせて
人員を調整するようになってしまった。ところが今年は二人も殺されてしまった為、
捜査本部の置かれているこの晴刷署は今、捜査方針を巡って大混乱に陥っているのだ。

毎年事件が起きていて、犯人は捕まっていないのだから調べることは増える一方なのだが、
もう最初の事件が起きてから10年以上になる。
捜査する側も同じことの繰り返しで、大きな声では言えないが事務的な作業が行われているだけで
本気で捕まえようとしている者はもう誰もいないのでは、などという笑えない噂も署内で流れている。
実際鬱井が署内で耳にした事件の捜査状況は全く前進の気配がなく、
捜査本部が置かれているにも拘わらず捜査員たちの“熱気”のようなものは微塵も感じられなかった。

ところが、今夜になって事態は急速に変わりつつあった。
今年も確かにキリサキマサキによる事件は起きた。
昨夜(といっても日をまたいで署に詰めている鬱井にとってはまだ“今日”という感覚だが)起きた
23歳の女性会社員が殺された事件は間違いなくキリサキマサキによる犯行だと捜査本部は早々に
断定したらしい。その判断材料となるものが何なのかは捜査に加わっていない鬱井にはわからなかったが、
問題は昨夜の事件ではなく、土曜の夜に起きた女子中学生が殺された事件の方だった。

31 :まりあ ◆BvRWOC2f5A :2008/08/04(月) 22:52:06 ID:???
どうしてそういう判断が下されたのかは知る由もないが、鬱井が聞いたところによると
二つの事件は全くの別物だとされ、その為捜査方針の変更を迫られているのだという。
鬱井には何が何だかわからない。会社員の女性も女子中学生も同じ殺され方をしている。
世間も二つの事件は同一の犯人によるもの、つまりキリサキマサキの仕業だと思っているはずだ。

単純に二つ事件が起きたから、といえばそれまでだがどういうわけか捜査本部は
急遽人員の増強を図ったのだ。既に本庁からも仰々しい肩書きを持つ者達も出向してきていたが、
署内の各課からも数人ずつ臨時であちらの事件に駆り出されたのだ。

はっきりいって異例の事態だった。同じ警察とはいえ課によってはやることも必要な能力も違う。
しかしそれほど混乱しているのだ。捜査本部の人間が生活安全課に臨時の協力要請をしに来た時は
鬱井は自分が選ばれたらどうしようと身を小さくしてスカウトの目に止まらないようにしていた。
そのおかげか鬱井が選ばれることはなかったが、こんなことなら向こうに行った方が良かったかもしれない。
人が減ったせいで残された人間にかかる負担が大きくなるのは当り前のことだったのだ。
ただでさえ事務仕事が好きでない上に『字が汚くてあとで読む時困る』という理由で
あまりやらされなかった為、鬱井はLdが書いてくれたメモを見ながら書類と格闘するはめになったのだった。

32 :まりあ ◆BvRWOC2f5A :2008/08/04(月) 22:53:45 ID:???
「はぁ……」

頭を抱えること数十分。
アニメの放送開始時刻まであと20分ほどしかない。
鬱井は意を決して立ち上がる。

「もう……ゴールしてもいいよね?」

どうせこのまま書類と睨めっこしたって意味がない。
だってわからないもの。明日のことは明日考えよう。
怒られるかもしれないけど、ていうか絶対怒られるけど、きっと明日はいいことあるよ。うん。


「いいだろ。うん。仕方ないよ、俺。仕方ない仕方ない」

自分に言い聞かせるように呟き、鬱井は生活安全課をあとにした。





33 :ニコフ川д゚) ◆nikov2e/PM :2008/08/04(月) 22:54:30 ID:???
鬱井が出ると安心する

34 :外伝書き ◆X2rQHL2B4w :2008/08/05(火) 07:07:22 ID:???
はないたちの夜 外伝
〜 Nineteen Blues 〜

を書いていきます。

ただの外伝であり、推理要素もサスペンス要素も無いただの「青春物語」のつもり
朝組結成のあたりの話を広げてみよう企画!
イノセンスと美奈のダブル視点で物語は進んでいきます。

進行遅いかも。

35 :外伝書き ◆X2rQHL2B4w :2008/08/05(火) 07:08:03 ID:???
【1】プロローグ
人のごった返す街、東京。
その中でゴミを漁り生きている人たちがいる。
そんな中でも残りカスを頂いて生きているようなのが僕の所属する組織、大洋組である。

僕は15のときに田舎から飛び出してきて、
まぁ所詮田舎出のガキなんぞこの鋭い街東京で生きていけるわけはなく、
ついに1ヶ月もたたないうちにどうしたらいいかわからなくなっていた。

36 :外伝書き ◆X2rQHL2B4w :2008/08/05(火) 07:08:46 ID:???
僕は食っていくためにホームレスになるのは御免だったので、
近所の中学生をかき集めてちょっとした商売をした。
転売屋の元締めのようなもので、当時流行っていた電気屋の新店舗開店セールやら何やらと
とにかく安く買えるところや新商品の発売などに中学生を並ばせて商品を買わせ、
僕はその中学生から商品を手数料をつけて買い取り、さらにそれを欲しい人へと販売する。
当時インターネットなどというものが出始めた頃で、早々にそれに目をつけていた僕は買い手の確保
(とくに電気系はインターネットがそういう技術だったこともあり見つけやすかった)
が結構簡単にできたものだった。
中学生にしてみれば「なんだよこんなもん、安くても使えねー」というようなものでも、
僕(正確に言えば買い手)にしてみれば相当嬉しいお値段であり、そこに商売が成り立つ。
そういう風に買い手を捜す手のない中学生をいいように使って細々と収入を得ていたのだった。

その収入自体は大したことがない、他にも細かく色々やって総合したら大卒のサラリーマンくらいには稼いでいたんじゃないかと思う。
あまり法に触れるようなことはしていないし、日々作業をこなしていれば金が入ってくるという点ではサラリーマンと似たようなものだ。
結構自由な時間があったし、というか時間に縛られない生活をしていたしサラリーマンをやるよりはこちらの方が全然いい、
と今で言うとニート的な生活を続けていたのだった。
そんなとくに夢や目標なんてものは無く、東京という地に何が何でもしがみついてやるという意味のない目的のために僕は生きていた。

37 :外伝書き ◆X2rQHL2B4w :2008/08/05(火) 07:09:17 ID:???
「より効率的に、より良い稼ぎに」
僕は日々仕事の精度を上げ、やがて月に結構な額を稼ぐようになったとき、僕はついにしくじった。
多くの仕事のうちの一つがナワバリのヤクザに触れてしまったのだ。
さっそくヤクザが僕のところにやってきた。
何となくそういう状況を感じ取っていた僕はすっかり人生の終わりを覚悟していたが、
そのときヤクザが僕に向けたものはチャカでもナイフでもなく誘いの言葉だった。
「坊主、そんなところにおったら腐るで、ワシと一緒にもっとでかいことやらんか?」
変な方便で話しかけてきたのはアルティメットという名のヤクザだった。

38 :外伝書き ◆X2rQHL2B4w :2008/08/05(火) 07:09:53 ID:???
それから僕はヤクザの舎弟となった。
アルティメットの兄貴の所属する大洋組というヤクザは実は大したことのないヤクザで、
この東京においては大中小で言えば小に値するような子悪党であり、
ナワバリも対して広くなく、うっかりしたことで他のでかいヤクザに食われる危うさを持っていた。
しかし、そのヤクザからでも学ぶことは多かった。
収入は減ったが、金の稼ぎ方、作り方、生み方、色々な手段やノウハウを学んだ。
いつか幹部になったら僕なりのやり方でこの組織をでかくしてやろう、
そしてやがて組長にでもなって引退してのんびり暮らそう、なんて夢を思い描きながらとにかく兄貴について勉強した。

そして年月はたち19歳となる。
2001年の7月15日
じわじわと暑くなってきて、その上無駄に晴れ渡っていた日だったと思う。
暑さに耐え切れず事務所のクーラーの前のソファーでグッタリしていたとき、
僕の運命を大きく変える命令がアルティメットの兄貴より言い渡された。

「おいイノセンス、この女追い込んでこい」

そう言って渡された拙い作りの資料には同級生の写真が張ってあった。

39 :外伝書き ◆X2rQHL2B4w :2008/08/05(火) 07:10:37 ID:???
以上、1話。
2話はそのうち。では。

40 :外伝書き ◆X2rQHL2B4w :2008/08/05(火) 07:12:57 ID:???
このペースで全部で多くて20話くらいになる予定、多ければ50話くらい。
のんびりお待ちください。

41 :外伝書き ◆X2rQHL2B4w :2008/08/05(火) 07:45:16 ID:???
あ、すみません、>>38で2001年ってかいたけど2000年に訂正します。

42 :外伝書き ◆X2rQHL2B4w :2008/08/05(火) 20:24:21 ID:???
【2】仏像
写真の顔には見覚えがあった。
懐かしいというか、まったく変わっていない。
そこには小学校のときの顔のまま19歳になっている同級生がいた。

『あいつも東京来てたんだ…』

頭の中に小学校の頃の思い出をぼんやりと駆け巡らせて少し僕は感慨にふけっていた。
「なんだ?暑さでやられたか?」
兄貴がボーっと書類を見ていた僕を見て声をかけてきた。
「あ、いや、すいやせん」
ヘヘと愛想笑いをして立ち上がり出かける準備をする。
兄貴から渡された仕事だ。
イヤとは言えないし、どうせ誰かがやらなければいけない。
ならばむしろ僕が進んでいくべきものだろうと思い「行ってきやス」と言ってさっそく事務所を出た。

事務所から徒歩30分程度のところにその同級生は住んでいた。
そこそこしっかりしたアパート、セキュリティは…甘いようだ。
ザクザクと部屋の前まで突き進み、いつものように声をあげて扉を叩いた。
中でガッシャーンと灰皿をひっくり返すような音がして、ドタドタと荒っぽい足音がドアに近づいてきた。
ドアが勢いよく開く。
「うっさいんじゃ!!!」
「おーおー、相変わらず無駄に威勢はいいんだな」
「え?あれ?もしかして…イノセンス?」
「やあ、久しぶり。シニア、ちょっと入らせてもらうよっと」

43 :外伝書き ◆X2rQHL2B4w :2008/08/05(火) 20:25:01 ID:???
僕はそう言ってズカズカとシニアの部屋へ入っていった。
「おい!何やって・・ッ!あああああああ勝手に奥に行くんじゃねええええええええ!!」
シニアは一瞬固まって出遅れていたがすぐに僕の方を追いかけてきた。
そこで僕は廊下の途中で止まって振り向く。
「大洋銀行って知ってっか?知ってるよな?」
「大洋…えっ、え、まさかイノセンスお前」
「そゆこと」

大洋銀行とは我が大洋組の経営する闇金だ。
闇金が銀行なんて名前つけていいのか、と思うがそこは何から何まで拙い矮小ヤクザ。
そもそも法に触れる商売なんだしそういう細かいところは気にしないことにしている。
シニアはその大洋銀行から100万ほど金を借りていて、
それが膨れ上がってあっという間に1000万になってしまっている。
毎月20万くらいは返済入れていたそうだが、最近はそれが滞ってしまっているようで、
僕は今回身包み剥いででも借金の回収もしくは定期返済の約束を取るためにやってきたのだ。
1000万なんて返せるわけがない。
だいたいは変なところに身売りされてその金をうちがもらうことになるのだが、
それでも到底1000万に届かない、その後もひたすらうちに金を返すために生きる日々が待っている。
まともな金融ならいってもせいぜい300万程度だろうが、うちは何かと無茶をするので…
こんな無茶続けていたらいつかやばいんじゃねーの?と自分の組を心配している。

44 :外伝書き ◆X2rQHL2B4w :2008/08/05(火) 20:25:31 ID:???
「金、ないんだろどーせ」
僕はシニアの汚らしくてちょっと暗く淀んでしまった顔面を見ながら言った。
だいたいを理解して立ち尽くしているシニアを後ろに僕は廊下を進み奥の部屋の扉を開け、驚愕した。
まず散乱するタバコの吸殻が目に付く、これはさっき驚いてひっくり返したものだろう。
あやしい緑色の布団のようなものがあり、その上にはジャンプやゴミ袋、しわしわの洋服がまず散乱、
細かくなんかの紙、目のうつろなプーさんのぬいぐるみ、
一人暮らしの部屋には不似合いな1メートルばかしの阿弥陀如来像。なんでこんなものが?
とにかく色々なものが色々なところに散乱している。
部屋の角には大きなブラウン管ディスプレイのPCにPC用デスクがあり、椅子の動作空間だけが開いている。
ここが生活空間か…本来プリンターの置いてあるはずの上棚にはカップラーメンの食べ残しがあった。
プリンターはデスクの横に縦に置いてある。これ使ってんのか…?
部屋を一通り見回した頃、シニアが僕を超えて部屋の中に入った。
「汚いってレベルじゃねーぞ」
「うっさいな」
シニアは布団のあたりのものを足で蹴って空間を作った。
まさかそこに座れと?
「座ったら?」
その通りだった。

45 :外伝書き ◆X2rQHL2B4w :2008/08/05(火) 20:26:04 ID:???
あきらかに空間が足りてなかったのでまわりにあったものを強引に蹴飛ばして座り込んだ。
シニアはパソコン用デスクの椅子に座ってこっちを見ている。
「なんもないよ。ほんとなんもないんだ。」
「とりあえず具体的に貯金の額と金になりそうなもんあったら教えろ。嘘ついてもすぐバレるからな。あ、タバコ吸っていい?」
「タバコ?いいよ、灰皿はその辺に転がってるけど」
僕はタバコに火をつけた。もう灰も吸殻も床でいいだろ。
「貯金はね、だいたい2万円くらい。手持ちが500円。あとはこの部屋と、パソコンくらいかな」
すべてを諦めたようにシニアがポツポツと呟いていった。
イノセンスはそれをメモに取りながらまた部屋を見渡した。
「あの阿弥陀如来は?」
「あーあれ私が作ったやつだし、大した金にならないと思うよ」
「ぶふぉ!じ、自分で作ったの?!えー、ありえねー、なんだよその無駄な才能。」
結構でかい仏像だし細部まで掘り込んである。とても素人作りとは思えない仕事だ。
「暇なときがあってさ、なんとなく作りはじめたら凝りだしちゃって」
シニアは昔から凝り性なところがある。
と、同時に飽き性でもあり、凝り始めたところで泣きながら凝っていくのだ。
きっとこれも最後は涙と血反吐とともに完成させたのだろう。
小学校の頃は、正直意味がわからない奴だな、辞めればいいのに、と思いながら見ていたものだ。
それが大人になり本格的に暇をもてあますようになってしまうとこういう形になるのか…と変な感動を覚えてしまっていた。
何だか穏やかな表情になっていたらシニアに「何気持ち悪い顔してんの」と言われた。
「うるせえ、お前は金どうするか考えてろ」
そうは言ったがこういう債務者には期待できない。
そもそもそんなポンポン金の作り方が思いつくなら債務者になんかならない。
そうなると金の作り方を考えるのは僕の仕事だ。
シニアはもう考えるのなんて完全に放棄しているのか、髪をいじってつまらなそうにしている。

46 :外伝書き ◆X2rQHL2B4w :2008/08/05(火) 20:26:35 ID:???
「あんたなんでそんな仕事してんの?っていうか東京きてたの?大学は?」
「高校すら行ってねえよ」
「え?うっそ!高校行ってなかったっけ?ダレと勘違いしてんだろ」
「シラネ」
「そっかー、じゃー私と同じだねーアハハハハ」
腹を抱えて笑っている。そんなに面白いことなのか?
「ちょっとお前真面目に考えろよ、マジ大変なことなるぞ?」
「そんな大げさな。それよりさーひさしぶりなんだし話そうよ。」
駄目だこいつ…はやくなんとかしないと…
「中3以来?3年ぶりくらい?うっわ、変わってないねアンタ」
僕の苦悩をよそにシニアは勝手にしゃべり続けていた。
どっか能天気なのは相変わらずなようだ。
「んで、金は作れないわけね?」
「一応毎月100万くらいは入ってくるけど」
「なんだよそれ?!」
当然無一文のニートに近い生活してるんだろうと思っていた僕は、
年に不似合いな収入を得ていると聞いて思わず怒鳴り上げてしまった。
ヤクザの舎弟なんてものをやっていると事あるごとに怒鳴る癖がついてしまって困る。
「そ、そんな大きい声出すことないじゃん!」
「だって…おま…返せるだろそんだけあれば…。何やってんだよ、風俗か?」
「あー、うん。まぁ、そうなんだけどね。」
「んじゃさ、俺から組に言って返済の確約と引き換えに完済計画たてるからさ、月70万で2年も働けば…」
「ヤダ!え、ってか無理!」
「あ??」
何を言い出すのか、シニアは眉をひそめて困った顔をしている。何か訳がありそうだ。
僕は黙ってシニアの目をじっと見ていた。

47 :外伝書き ◆X2rQHL2B4w :2008/08/05(火) 20:28:03 ID:???
「実はね。今好きな人がいるの。
 その人とね、デートするときとか、ご飯代とか、あと部屋汚いからさ、ホテル代とか、プレゼントもたまにしたり…
 とにかく色々お金かかるの!」
僕は深いため息をつかざるを得なかった。
100万も収入があるのに月々20万の返済すら危うくなっているということは、
普通に80万レベルをその男につぎ込んでいる、ということになる。
そこから導き出される結果は…
「紐か」
「紐じゃないし!彼氏だし!」
シニアは激怒し、僕に向かって口を開いたまま震えている。
口をワナワナとさせている人間を久しぶりに見た。
しかし僕はシニアを無視して額に手をあてうつむいて唸っていた。
阿呆な子だとは思っていたが、本当にしっかりきっちり阿呆な子になっている。
「頭が痛くなってきた。とりあえず、今日は帰るよ。いい案考えてくるからさ、ちっとは協力しろよ?」
僕はゆっくりと立ち上がり力なく退場していく。
シニアは「うっさい!ハゲ!もう来んな!」とか言ってる。
一回スイッチ入るとアレな人なのかな、などと考えながらトボトボと僕は部屋を後にした。



次回「太陽」

48 :休憩まりあ ◆BvRWOC2f5A :2008/08/05(火) 20:35:18 ID:???
「あ、いや、すいやせん」


なんという下っ端口調w

49 :外伝書き ◆X2rQHL2B4w :2008/08/06(水) 01:29:32 ID:???
【3】太陽
僕は困っていた。
僕は非常に困っていた。

「んなめんどくせーことせんでも、その女売り飛ばしたらええやろ」
アルティメットの兄貴の言うことは実はわかりやすく、明快だった。
つまりは、シニアをどこかの風俗店にうつして本来シニアが受け取る給料を丸ごと頂いてしまえということである。
まったくその通り、男を別れさせてその上で100万の稼ぎから月々70万払えと言うよりも、
どっかに軟禁して100万ごっそり大洋組がいただいて飯だけ食わせてやる方が手っ取り早いのだ。
「ど、同級生なんスよ、何とか」
「そんなん聞けるか」
即答でお断りされた。
アルティメットの兄貴は実にヤクザらしいヤクザだ。
やはり僕にはヤクザは向いていないのかもしれない。
金を取るためには身内だろうが関係無し。
そういった冷徹さが僕には足りない。

50 :外伝書き ◆X2rQHL2B4w :2008/08/06(水) 01:30:02 ID:???
僕は困っていた。
非常に困っていた。

同級生を売り飛ばすのはあまり気が乗らなかった。
むしろ全然そんなことはやりたくない。
3年間連絡もとってないような奴だが、
小学校の時とくに仲のいい友達がいたわけじゃない僕にとってシニアは数少ない友達だった。

51 :外伝書き ◆X2rQHL2B4w :2008/08/06(水) 01:30:33 ID:???
シニアは明るいし結構誰とでも仲良くなれるような奴で、阿呆だからよくからかわれたりいじられるキャラだった。
そのせいでかシニアはちょっと怖がりになっていて、表面上仲良くやっているのだが常に少しだけ警戒しているような奴だった。
(結局その警戒も自らの阿呆さの前では意味はなく終始いじられキャラだったが)
小学生においてその程度の警戒心など気付くはずもなく中学卒業までみんな仲良くやっていたようだ。
ので、シニアは最後まで「誰とでも仲良くなれる明るい阿呆な子」だった。
僕はというと、僕も誰とでもそこそこ仲良くなれたが何となく心の底から盛り上がるようなバカ騒ぎをできるような人間ではなく、
遊びに行くとかも誘われたら何となく一緒に行ったりはするくらいで、だいたい家で本を読んだりテレビを見たり、
少し暗めののんびりした子だった、と思う。
あるとき僕がシニアの怖がりな一面に気付いてから、僕は少しシニアが気になるようになった。
どうやったらその「怖がり」をしているときの空気がより強くなるのか、ということに興味があって、
ちょくちょく色々なことをシニアにしては反応を見て楽しんでいた。
そう、僕もシニアをいじって楽しむ人間の一人だったのだ。
しかし僕のいじりは他の人とは異質で、リアクションを見て皆で楽しめるようなものではなく、
ひっそりと注意深く観察していないと見落としてしまいそうなリアクションを、その一瞬を楽しむものであったから
何となくよくシニアに話しかけてる奴だな、としか思われていなかったと思われる。
結局中学を卒業するまでずっと同じクラスだったシニアとはいつのまにか仲良くなっているような感じになっていた。
卒業してから連絡もしていないんだからそれは偽りの仲良し関係だったと思われても仕方が無いような状態だが、
それでも僕は小学校・中学校の思い出といった話で友達は?と聞かれれば最初にあげる3人に必ずシニアは入るだろうな、
という印象を持っていた。
そんな仲である。
思い出深くないと言えば嘘になるような人間だ。
それを搾取の人生に陥れるのは駄目だ、夢見が悪くなりそうだし。

52 :外伝書き ◆X2rQHL2B4w :2008/08/06(水) 01:31:06 ID:???
「なんや、飛ばし先がわからんのか?そういえばお前そういうのやったことなかったかもな」
頭を抱えていた僕にアルティメット兄貴が心配をかけてくれる。
そうじゃない、僕が悩んでいるのはそこじゃない。
僕は愛想笑いつきで「大丈夫ッス」と言ったが、先輩は引き続き心配をかけてくれる。
ありがたいことですね!!
「なんか悩みあったらきいたるけえ、いつでも相談せえよ」
アルティメットの兄貴がニコニコしながら僕の方を見ている。
相変わらずのおかしななんたら弁が僕を余計に疲れさせた。
「自分、ちょっと出てきまっス」
このまま事務所にいるとアルティメットの兄貴の好意に蒸し殺されそうなので僕は近所の喫茶店へ行くことにした。

53 :外伝書き ◆X2rQHL2B4w :2008/08/06(水) 01:31:38 ID:???
「暑い・・・」

7月の下旬ってこんなに暑かっただろうか、直射日光が僕の腕をジリジリと焼いてくる。
眉をひそめる人が目の前からいなくなり多少軽くなった体だったが、
すぐにムワムワと音が出ていそうな湿気によってどっしりと沈み込んだ。
本当に今日は暑い。
前にもまして攻撃的な太陽と出会うことが多くなった。
じんわりと思考を奪われていく。
喫茶店までだるそうに足を前へ前へ、モヤモヤとした頭を抱えながら歩いていた。

「めんどくせえなあ」

髪の隙間からじんわりと汗が滲む感覚がする。
扇子を持ってくれば良かった…喫茶店までほんの10分くらい。
大したことないと思っていた。
僕はどうしても甘く見てしまう癖がある。
仕事のときや命がかかったときなんかは別段気の抜けることも見誤ることも無いのだが、生活においてはいけない。
ヤクザに関わるようになったのも、仕事がほとんど生活化していて気が抜けていたせいだ。

「ぅうああ、めんどくせええええ!!」

一瞬まわりに人がいないのを確認してから僕は大きくけのびをしながら叫んだ。
息を思い切り吐いたら少し涼しくなった気がした。
テクテクと歩く、ジリジリと焼かれる、喫茶店が迫る。
頭のモヤモヤが何となく一つところに固まって「さて僕らはどうなるのだろう」と考えているような、
彼らを僕をどうするか、今目の前にある喫茶店の看板の「珈琲500円」の文字を見ながら僕はぼんやりと決めかねていたが、
ふぅっと鋭いため息一つついてから僕は銀行に向かって歩き出した。
銀行の方がキンキン冷えていて涼しいのだ。
やっと僕の頭の中も快晴になった。

54 :外伝書き ◆X2rQHL2B4w :2008/08/06(水) 01:32:08 ID:???
以上。次回「灰皿」

55 :休憩まりあ ◆BvRWOC2f5A :2008/08/06(水) 03:06:41 ID:???
外伝が同時進行するカオスなスレですがどうぞよろしくお願いします

56 :まりあ ◆BvRWOC2f5A :2008/08/06(水) 03:14:11 ID:???
     【第四章】





   1.酒は飲んでも呑まれるな



こんな夢をみた。

僕は頭から毛布をかぶって座イスの上で膝を抱えて丸くなっていた。
どうやらテレビを観ているようなのだが何の番組なのかは思い出せない。
確か歌番組だったような気がする。

はっきりと覚えているのはブラウン管が放つ色彩だけで、
その周りは真っ暗だったし、僕は部屋の電気を点けないでいたのだろう。
いや、点けないでいたのか自分で消したのか。
とにかく部屋は暗かった。外から差し込んでくる光もなかった。
ということは夜なのだろう。

しばらくすると家の外から男女の声が聞こえてきたので僕は慌ててテレビを消して
毛布から抜け出し、襖一枚隔てた隣の部屋に移動した。

57 :まりあ ◆BvRWOC2f5A :2008/08/06(水) 03:21:58 ID:???
木が軋む嫌な音がして僅かに家全体が揺れる。
玄関の扉が開いたのだ。
僕は暗闇の中で隠れる場所を探す。
ぼんやりとしか見えないがどこに何があるかぐらいは大体わかる。

扉が閉まる音がして再び家が揺れ、遠慮のない足音が近づいてくる。
僕は急いで押し入れの中に入った。

「あ? どこ行きやがった」

僕が押し入れの襖を閉めるのとほぼ同時に男の声がした。
たぶんこっちの部屋を覗いているんだろう。

「またこんな時間に外を出歩いてんのかあのガキは」

男の口調は荒く、やや呂律がまわっていなかった。
僕は押し入れの中で息を潜めて願う。どうか見つかりませんように。

「いい加減にしろよ。俺はもう警察まで迎えになんか行ってやらないからな」

警察署の前で殴るぐらいなら迎えに来てくれなくていい、と僕は思う。

58 :まりあ ◆BvRWOC2f5A :2008/08/06(水) 03:27:36 ID:???
それからどれぐらいの時間押し入れの中に隠れていたのかわからないが、
どうやら僕はそのまま眠ってしまったようだった。

眠ったことを覚えているわけではないが、眠ったのだ。
そのせいで僕は押し入れの中にあった何かに頭をぶつけて自分がそこにいることを
あの男に知らせてしまったのだ。
起きていたならそんな迂闊なことは絶対にしなかった。

「こんな所に隠れてたのか」

襖が乱暴に開けられ、男が僕の髪を掴む。
自分の迂闊さを呪いつつ絶望したところで目が覚めた。


   ◆


人生で何度か経験したことのある寝ゲロだが、
何度やっても慣れるものではないし楽しいものではない。

凶悪な酸味臭を嗅ぐと胃の奥から熱いものが込み上げてくる。
我ながら最低だ。酒は飲んでも呑まれるな。

59 :まりあ ◆BvRWOC2f5A :2008/08/06(水) 03:33:31 ID:???
さて、ここはどこだろうか。
どうやら座玖屋邸の一室であるということはわかるが、室内の景色に見覚えはない。
客室だろうか。どうやってこの部屋に来たのか記憶に無い。

室内にあった等身大の鏡でチェックしてみるが髪の毛にゲロはついていないようで安心した。
いい吐き方が出来たのだろう。枕は大変なことになっているが。

しかし口の中は気持ち悪いし右の頬あたりに独特のカピカピ感があるし、
そのあたりからうっすら酸味臭はするしで不快なことこの上ない。

とりあえず洗面所を借りよう。
ついでに水も飲みたい。


ドアを開けて廊下に出ると、きらたまが階段を上がってくるのが見えた。
何やら盆を持っている。盆には水差しとコップが乗っていた。
腕には折りたたんだタオルをひっかけている。

60 :まりあ ◆BvRWOC2f5A :2008/08/06(水) 03:38:35 ID:???
きらたまは僕に気付くと、足を床に滑らせるようにしてソソソソと近づいてきた。
どうやら僕の寝ていた部屋に入ろうとしているらしい。
が、流石に僕も他人に自分のゲロを見られるのは好きではないのでそれは困る。

無言で近づいてくるきらたまをジェスチャーで制して彼女の部屋の方を指さすと
きらたまはピタッと動きを止めて一瞬何か思案するような顔をしたが、
強引に僕の方から近づいていくと彼女は無言で頷いて踵を返した。

気配を殺してゴキブリのようにカサカサときらたまの部屋へ。


「大丈夫ですか?」

きらたまはコップに水を注いで差し出す。

「悪いね。もしかして僕の為に?」
「はい。さっき様子を見に行ったら、その……アレでしたので」
「あぁ、アレね。うん」

どうやらばっちり見られたらしい。
まぁしかし見られたのなら仕方ない。
恥ずかしがると余計に惨めなのであえて堂々と施しを受けよう。

61 :まりあ ◆BvRWOC2f5A :2008/08/06(水) 03:43:21 ID:???
「替えの枕を探したんですけど見つからなくて……三浦に聞けばわかると思うのですが」
「汚して悪いね。クリーニングに出して返すよ」
「いえ、いいですよそんなの」
「あぁそう?」

しかしあのまま放っておくのは人として危ういので、後始末ぐらいは自分でやっとこう。
僕はきらたまからタオルを受け取って自分の部屋へ向かった。


   ◆


「もしかしてずっと起きてたのか」

顔を洗って、部屋のアレを始末した僕はきらたまの部屋に戻ってきていた。

「はい。なんだかんだと後片付けをしていましたので」

もうすぐ0時半。
良い子はぐっすりとお休みしている時間だ。

62 :まりあ ◆BvRWOC2f5A :2008/08/06(水) 03:48:52 ID:???
「あれからどうなったんだ?」
「え?」
「ほとんど記憶がないんだ」
「あ……そうですか。まぁ、そうですよね。あれだけ……」
「あれだけ……なに?」
「いえ」
「なんだよ」
「私の口からはちょっと……」

許容量を超えて飲み過ぎてしまったというのは自覚しているが、
きらたまが途中で言葉を途切れさせてしまうほどのことがあったのだろうか。

「九州さん、本当に何も覚えていないのですか?」
「うん」
「あの……その……“それ”のこともですか」

僕の目を見ていたきらたまの視線が下がるので、僕もそれに合わせる。
彼女は僕の胸の辺りを見ているようだった。

そこにはお気に入りの変な顔の猫がプリントされているはずなのだが、
どういうわけだか無地である。

63 :まりあ ◆BvRWOC2f5A :2008/08/06(水) 03:53:25 ID:???
「あれ?」

自分が服を表裏逆に着ていることに気付いた。
何故だ。
僕はそんなに寝相が悪いのかと思ったがそんなはずがない。

「ちょっと待て。僕は一体なにをしたんだ」
「あ、あの、覚えていないのならそれでいいと思います」
「良くない」

それから10分ほど問い詰めてみたが、きらたまは頑として真相を語ろうとはしなかった。


   ◆


「ああ、そうだ。ノワは?」
「九州さんの隣の部屋です」
「帰ってなかったのか」

ノワはあれでも家がある。
だから泊まっていないと思ったのだが。

64 :まりあ ◆BvRWOC2f5A :2008/08/06(水) 03:58:34 ID:???
「少し飲み過ぎてたみたいだったので」

どこまでも間抜けな奴だ。
人のことは言えないけど。

「君のお兄さんは?」
「帰りました」
「ああそう。そうか、一緒に住んでるわけじゃなかったんだな……で、親睦は深まったのか?」
「え? えぇ……そうですね」

なんの気なしに聞いてみただけだったのだが、きらたまは曖昧に答えて俯いてしまう。

「うちのノワは君のお父様と随分打ち解けていたみたいだったけど」
「そうですね。今度一緒に釣りに行くと言っていました」
「普通に友達じゃないか」
「はぁ」
「ノワは君のことも気に入ってるみたいだしな。よかったね」
「そ、そうでしょうか……そうですね。優しくしてもらってますね。九州さんにも」
「僕? まぁ……あぁ、まぁいいか」

華鼬と座玖屋ファミリー。
今日新たに進展があったのはノワと座玖屋が釣りに行くほど仲良しになったぐらいだ。

65 :まりあ ◆BvRWOC2f5A :2008/08/06(水) 04:04:20 ID:???
「お兄さんは? ノワと何か話してたか?」
「そうですね、少し」
「君やお父さんとは話したのか?」
「どうしてそんなことを聞くのですか?」
「興味本位」

僕が正直に答えると、きらたまは視線を落として力なく笑う。

「お兄様はどうしても私がファミリーを継ぐことが気に入らないみたいで……」
「あぁ、またそういう話か」

その話はもうどうでもいいことで、あんな関係者一同が集まって話し合っても意味がない。
政治的でいやらしい取引というのは裏でこっそりやるものだ。

「今更グダグダ言ったってどうにもならんだろうに。
 まさか君を三代目から引きずり降ろせるまで嫌がらせでもする気なのか」

このままでは遅かれ早かれ身内同士での抗争に発展するだろう。
そうなったら同盟を結んだ華鼬にも火の粉がかかるのは目に見えている。
あまり面倒なことはやめてほしい。

66 :まりあ ◆BvRWOC2f5A :2008/08/06(水) 04:09:30 ID:???
「ない、とは言い切れませんが……。たぶん大丈夫だと思います」
「僕が言うのも何だがそんなにのんびり構えてていいのか」
「私、お父様の狙いがわかったんです」

きらたまはきっぱりと言い切った。
しかし、断言したわりにはどこか自信なさそうな表情だった。

「扱いやすい私を三代目に据えた上で九州さん達を抱き込んでしまえば
 いくらお兄様でも無茶は出来ないと読んでるのでしょう」

今更言われなくてもそんなことは最初からわかっている。
僕は黙って頷く。

「君のお父さんは本当のところお兄さん……鈍堕華をどうする気なんだろうね」
「お兄様にも納得してもらう……つもりだと思います」
「わかりにくいな」
「……九州さん」

漠然とした見解に僕が納得出来ないでいると、
きらたまは急に真剣な顔つきになって居住まいを正した。
じっと見つめられて僕はなんだか落ち着かない。

67 :まりあ ◆BvRWOC2f5A :2008/08/06(水) 04:13:16 ID:???
「なんだ」
「私、九州さんのことが好きです」
「はぁ?」
「もちろんノワさんもです」
「何の話だ」

話が明後日の方向に飛んでいくのではないかと心配になったが、そうではなかった。

「お父様はきっと九州さん達を殺そうとしているのだと思います」
「……それはそれは」
「いえ、そんなことは絶対にさせません。絶対に」

きらたまは力強く言うが、この娘の言うことなどまったくもって頼にならない。

しかしきらたまの言うことにも一理ある。いや、もしかするともしかする。
座玖屋は華鼬と同盟を結んだ上で僕やノワをなんとかして亡き物にし、
その後は上手いことやって華鼬を乗っ取ろうと画策しているということか。
と、すると色々ひっかかることがある。

「お兄様も九州さん達のことをよく思っていません。同盟を結ぶのにも反対していましたし。
 華鼬を乗っ取りさえすれば、お兄様も三代目の座にこだわることはなくなるはずです」
「そういうもんかね」

そうだろうか?
僕にはあの鈍堕華という男がそれで大人しくなるとは思えなかった。

68 :まりあ ◆BvRWOC2f5A :2008/08/06(水) 04:17:17 ID:???
「はい、だって九州さん達さえいなければ、お父様も身を退いた今、お兄様にとっては
 組織での自分の序列など関係ないのです」

きらたまは無理に笑顔を作るが、自虐的で痛々しかった。
しょせん自分など御輿に過ぎないと自覚しているのだろう。

「そのあとはどうなると思う」

僕は聞いてみた。
彼女の推測が当たりだったとして、その後。

「その後のことは……まだわかりません。
 もしかすると私は引退させられてお兄様が四代目になるのかもしれませんし」
「少なくとも鈍堕華はそれを狙ってるだろうな」
「お父様は……お父様は最初からそこまで考えていたんだと思います」
「へぇ……?」
「九州さん達をどうにかするというのは別として、私もそれがいいと思うんです」
「何故?」
「きっとそうするのが私達家族にとって一番なのです」
「はぁ?」

何故か嬉しそうな表情のきらたまを見て、僕は強烈な違和感を覚えた。
この娘の言うことはいつも唐突でいちいち常軌を逸している。

69 :まりあ ◆BvRWOC2f5A :2008/08/06(水) 04:20:33 ID:???
「お父様もきっとそう考えているはずです」
「君達家族にとってそれが一番……だと?」
「はい。そうすればきっと上手くいきます。
 そうなればもう家族でいがみ合わなくてもいいのです」

……何故だ?
何故そんなにも楽観的で都合のいい解釈が出来るのだ。
僕には納得がいかなかった。

「お兄様だって私やお父様のことを憎んでいるように見えるけど、本当は……」

本当は? 
本当は何だというのだ。
あえてその先を口にしようとしないきらたまの表情に陰りはない。
曇りのない眼差しが僕を射抜く。

……ありえない。

70 :まりあ ◆BvRWOC2f5A :2008/08/06(水) 04:24:31 ID:???
どうしてこの娘はそんなに楽天的な思考が出来るのだ。
僕からすればお前達家族の絆なんてこれっぽっちも感じやしない。
あの父親は息子と娘のことを盤上の駒ぐらいにしか見てやしないはずだ。きっとそうだ。
息子はそんな父を嫌悪し、のほほんと当主の座に座った妹に嫉妬し憎んでいるはずだ。
そしてこんな呑気なことを言っているがこの娘だってただのヒマワリ娘じゃない。
ふとしたことでその本性を曝け出すキチガイだ。
口では都合のいいことばかり言っているがそれは願望や妄想であり客観性に欠けている。
とてもじゃないがお前達は幸せな家族とは言えない。
僕やノワという存在の動向如何であっさり瓦解する程度の脆い関係だろう。
お前が現実を無視するのは勝手だが、そんな甘いものじゃない。

そうだろう。
そうに決まっている。

「き、九州さん……?」

家族などという形式だけの間柄にお前が求めているような温かいものはないのだ。
大体この娘の言うことは鵜呑みに出来ない。
公衆の面前であんな醜態を晒すような頭のおかしい奴の語る家族愛など信じられるか。
むしろ家族なんて赤の他人より近しい存在だからこそ疎ましく思うのだ。
表面上でいくら繕っても双方が相手の存在を尊重出来なければ結局は憎しみ合うしかない。

71 :まりあ ◆BvRWOC2f5A :2008/08/06(水) 04:28:24 ID:???
「九州さん、ど……どうしたのですか?」

この娘が本当に心から家族を愛し、理解しようとしているのだとしても、
そんなもの無意味で無価値で無駄な想いでしかない。
どれだけ努力しても報われない想いだってある。

頭が痛い。

腕も、わき腹も、足首も、体中がズキズキと痛み出す。


「──さん……九州さん」

僕も理解しようとした。
出来るだけいい子でいようとしたし、無理に笑顔を作ったりもした。
だけどそんなものは何の意味もなかった。
何故ならあの男は最初から僕を理解しようとしていなかったのだから。

胸が苦しい。
酸素が薄い気がする。

あれだけ頑張ったのに。
いっぱい我慢したのに。
なのにあの男は僕の目を見ようともしなかったし、母は僕が間違っていると言って聞かせた。

72 :まりあ ◆BvRWOC2f5A :2008/08/06(水) 04:33:42 ID:???
「九州さん!」
「触るな」

きらたまが僕の肩を掴んで揺すろうとするので僕はその手をはねのける。

「だ、大丈夫ですか……?」

全然大丈夫。
そんなことより。

「──君は、父や兄を愛しているのか」
「え……」
「仮に父や兄が君のことを愛していなくても、それでも君は彼らを愛することが出来るか?」

僕の質問にきらたまは面食らったように顔をこわばらせたが、
すぐに柔和な笑みを浮かべて言った。

「……はい。家族……ですから」

質問の意図を測りかねているのか、表情とは裏腹に言葉の歯切れが悪かった。

73 :まりあ ◆BvRWOC2f5A :2008/08/06(水) 04:34:26 ID:???
「殺されてでも同じことが言えるか?」
「どういう意味ですか……?」

きらたまはそれ以上の追及を避けようとしてか、苦笑いしながら僕から視線を外した。

質問の意味がわからないというならそれでかまわない。
わかった上でとぼけているのならそれでも結構。

無理やりにでも答えを出させてやる。







74 :おいら名無しさんヽ(´ー`)ノ:2008/08/07(木) 00:03:16 ID:???

     ∵∴∵         : . .. :∵..::::/U::∪:`U
    ∵∴∵∴: : . . / ̄\   ::(つ´    ヽ
. : ∴∵   ....... :  .:|  . =-―‐‐ /0      ',-,,,_  ‐-,,,_
.. : :     ....:: :: . :::::::\_,,;-‐=ニ二_{o       :}_二ニ=-‐'''~
∵     ::..::   .:::::::  | ~'''‐-  ヽ ~~"'''―-----―'''
      ∵::  :::∵/ ̄ ̄ ̄\.   |ヽ、___,.,/  ∴∵
    ∴∵::.  ::/ ::\:::::::/:::: \ /   ::/   ∵
    ∵∴:: .::::   <●>;::::::<●>  \...:∴::  ここまで読んだ!!
  ∵:..:.: /⌒ヽ::l⌒`i (__人__)    |∵::   
  :/⌒ヽ|  |;; ;|  | ` ⌒´    /∴:: 
 (  ヽ;;ヽ__ノ;;; ヽ__ノ ! ̄ ̄ ̄ ̄
 >‐' /´.:.:.:.::::::::::::ヽ`ト、 .:∴::  . ∴∵∴  
( : :/0   .:.:.:.::::::::::::', :    .. ...::∴
∵ |o    .:.:.:.:::::::::::::}: :: ..... ::∵

75 :外伝書き ◆X2rQHL2B4w :2008/08/07(木) 00:13:23 ID:???
【4】灰皿
「す、涼しい…」
キンキンに冷えた空気を体いっぱいで感じながら僕は預金残高を確認していた。
僕には秘蔵貯金がある。
正直ヤクザなんて金にならない。
というかそもそも給料なんてものはない。
アルティメットの兄貴くらいになればちゃんとした給料みたいなものも出るのだろう。
しかし僕のような、いわゆる舎弟クラスの人間は兄貴に食わせてもらって何とか生きているような奴ばかりだ。
そんな生活の不安から、僕は個人的に時間を作っては仕事をしてきたりしていた。
その金をこっそり貯めこんで(兄貴にバレたら没収されかねない)、僕はそれを秘蔵貯金と呼んでいる。
「だいたい900万…こんなにあったっけか…」
秘蔵貯金は900万までたまっていた。
個人的なお勉強や、先行き不安からの貯蓄である。
使う予定も使い道もなく、黙々と積もり積もっていってしまっていた。
僕はとりあえずそこから10万円を引き落とした。
それをポケットに突っ込んで僕は銀行を出た。
ムワリと湿気が僕を食いにかかる。
食っとけ食っとけ、と心の中で呟き僕は繁華街へと歩き出した。
まずは行き着けのラーメン屋で腹ごしらえ、その後漫画喫茶でのんびりしよう。
これからのことを考えると少し幸せな気持ちになれた。
さらにその先のことは…今は考えない。

76 :外伝書き ◆X2rQHL2B4w :2008/08/07(木) 00:13:54 ID:???
夜になって僕は動き出す。
電車に乗って二駅、結構大きな駅の飲み屋街にあるこじんまりとしたバーへと向かう。
飲み屋街でもはずれの方にあるレンガ風の外壁のビルの横にある階段を下りると、
うすぐらい空間に真っ黒の重たそうなドアが目の前に現れる。
ドアには看板がかけられているくらいで他には何もない。
木版に渋く彫られたisolationの文字がライトアップされて映し出されている。
このバー「isolation」は会員制で、ドアの横にある電子ロックの操作盤に暗証番号を入れないと入れない仕掛けだ。
僕は自分の会員番号を入力してエンターボタンを押し、続いて暗証番号を入力し、
操作盤についているカメラに顔が映るように少し離れて立つ。
しばらくしてドアがガチャリと開く音がした。
ドアを開けて中に入ると、わざわざ会員制にしなければいけない理由の見当たらないような普通のバーで。
少し長いカウンターの先に気持ちの良さそうなソファーで4人がけの机が4つほど。
暗い静かな雰囲気の縦に長い店だ。
すでに先客はちらほらといて、僕は一番近いカウンターのドア側のはじっこに座り「塩犬」とわざと阿呆な言い方をして注文した。
マスターはまいどのことと特に突っ込みも入れてくれずグラスの準備をはじめていた。
「あ、あと豆も!ピスタチオね」
マスターはまたも一瞬だけこちらに目をくれただけで無言でガチャガチャとやっている。
冷たいマスターだ。
しかしこれには訳がある。
マスターはあまり客と関わらないようになっているのだ、このバーでは。

77 :外伝書き ◆X2rQHL2B4w :2008/08/07(木) 00:14:25 ID:???
このバーは完全会員制、僕はアルティメットの兄貴の紹介してくれたちょっと大洋組と比べると結構大きな組の人に連れられここに来た。
そのときに会員登録をお願いしたおかげで今ここにこれるのだ。
ここは主にヤクザの人が多くくるところで、かと言ってヤクザの憩いの場という訳ではない。
ちょっと自分の手の届く範囲ではどうにもできないような仕事ややりたくない仕事をここに持ってくる人がいる。
その仕事ができそうな人がそれをいただく、と。
ヤクザどもの便利なお仕事交換所となっているのだ。
僕の秘蔵貯金もここで得た仕事によるものがほとんどである。
ちょっと大きな仕事になると、コネで探すと兄貴がしゃしゃりでてきて半分以上持っていかれてしまう。
だから僕は大きな金を得たいときはここにくるのだ。

仕事の探し方は露骨に「仕事ありやせんか仕事ー!」と言ってはいけない。
そこは日本人らしく、静かに遠慮がちにやらなければいけない。
替え用の灰皿が置いてあるスタンドがあって、そこから灰皿を持ってきて、元から席に置いてあった透明の灰皿を下に重ねる。
これで仕事の依頼・受託の意思表示は完了である。
この灰皿の色が緑ならば1万円単位、黄色なら10万円単位、赤色なら100万円単位、金色なら1000万以上の仕事。
下に重ねる灰皿が机に元から置いてあるものならば仕事を請けたい、スタンドから持ってきた色付の灰皿なら仕事を依頼したい。
さらに細かく意思表示をしたければ灰皿の中に吸殻を何本か入れておく。
例えば、黄色の灰皿の下に透明の灰皿、吸殻が3本であれば「30万の仕事を請けたい」ということだ。
僕は今回赤色の灰皿の下に透明の灰皿を入れて、タバコの吸殻は別の灰皿に入れる。
これで「100万くらいの仕事ないかい?」という意思表示である。

78 :外伝書き ◆X2rQHL2B4w :2008/08/07(木) 00:15:02 ID:???
マスターがソルティードッグとピスタチオを持ってきた。
無言で僕の目の前に置き、そのときカウンターの一番奥にいる男を一瞬チラッと見た。
これはマスターが「あんたの条件にあう男はあそこにいるよ」と親切心で教えてくれているのだ。
僕はマスターの目線にあった男を見る。
30歳くらいのスッと引き締まった、けれども筋肉はガッツリついていそうないい体の男がいた。
明るめのカジュアルな服装で、あからさまなヤクザという感じではない。
清潔で仕事のできそうな一般人である。

僕はそっとその男に近づいて話しかける。
「横いいですか?」
男はチラっと少しだけこちらに体を向けて一瞬間をおいてから隣の席へ手を出して「どうぞ」と言った。
近くで見ると無精髭があった。表情もどこか濃い。
男の灰皿は赤色の灰皿が二段重ね、吸殻は2本ある。
「2ですか?」
「2だ。」
「でかいですね。」
「安くはないぞ」
男の話す雰囲気から危険な香りがしっかりと漂ってきた。
これはちょっと焦りすぎなのか?と思ったが、見たところ他に大きな依頼をもってる奴はいなさそうだ。
しばらく悩んだが請けることにする。
「ここも奢りなら」
僕はあらかじめ用意しておいた個人用の名刺を灰皿の下に差し込んだ。
「明日の昼頃に」
男が時間を言ってきたので僕は退散することにした。
このバーは嫌な緊迫感があって長居するような場所ではない。
「マスター、そこの人にね」
言い捨てて僕はバーを出る。
マスターはこのときも軽く頭をさげただけだった。

79 :外伝書き ◆X2rQHL2B4w :2008/08/07(木) 00:15:58 ID:???
以上。
次回、「鉄塔」
土日になりそう。

80 :休憩まりあ ◆BvRWOC2f5A :2008/08/07(木) 00:31:00 ID:???
isolation

い……いそらちおん

81 : ◆K.tai/y5Gg :2008/08/07(木) 00:34:37 ID:???
イノセンスのキャラが忠実過ぎる

82 : ◆K.tai/y5Gg :2008/08/07(木) 00:36:35 ID:???
でね、あのね、かなり分かりやすく書いてくれてるのにバーの裏ルールが分かんなかったのは
俺がノータリンだからです気にしないで

83 : ◆K.tai/y5Gg :2008/08/07(木) 00:37:16 ID:???
個人の好みだけど改行あると読みやすいなぁ
思いのほか長編っぺえ

84 :外伝書き ◆X2rQHL2B4w :2008/08/07(木) 00:41:32 ID:???
6話から改行モードで書いてみる。

85 : ◆K.tai/y5Gg :2008/08/07(木) 00:43:43 ID:???
俺やまりあさん方式は「」の前後にスペース入れますね
なんか小説っぽくねえといえばそうなのかも知れないけど

86 :休憩まりあ ◆BvRWOC2f5A :2008/08/07(木) 00:51:03 ID:???
AM1:00に投下開始します

87 :ニコフ川д゚) ◆nikov2e/PM :2008/08/07(木) 00:59:47 ID:???
くる・・・

88 :まりあ ◆BvRWOC2f5A :2008/08/07(木) 01:00:38 ID:???
   2.自転車の二人乗りはダメ、絶対。



少し肌寒い秋の夜長に綿100%のスウェット上下はちょっと甘く見過ぎだった。
じっとしていると冷えるので俺は体を左右に揺らせて体を温める。

真夜中の『ひとで公園』には当然の如く人気が無く、虫の鳴く声だけが深々と響いていた。
日付も変わって9月13日の午前0時。しかも月曜日。
こんな時間にこんな所にいるのは家がない人か不良中学生しかいない。

家から徒歩3分のこの公園は噂によるとその昔墓地だったらしく、
季節によってはアレが出るとか聞いたのを唐突に思い出してしまった俺はなんだか不安になる。
もう秋だしアレもシーズンオフだからきっと大丈夫だろうが、
もしかするとそんな風に油断している奴を狙うタチの悪いアレもいるかもしれない。
ちょっと背筋が寒くなった俺は帰りたい衝動に駆られるが、帰るわけにはいかなかった。

気を紛らわせる為に俺はジャングルジムに登る。
登ったところでアレがどうにかなるというわけでもないだろうがとにかく登ってみた。
もしかすると俺は怖いことがあると高い所に登る性癖があるのかもしれない。

ジニがママチャリに乗ってやってきたのはそれから3分後だった。

89 : ◆K.tai/y5Gg :2008/08/07(木) 01:05:43 ID:???
青春路線か

90 :まりあ ◆BvRWOC2f5A :2008/08/07(木) 01:05:56 ID:???
「何時だと思ってんの……」

ジニはチャリに乗ったままジャングルジムの下までやってきて、不満そうに俺を見上げる。

「お前それ……どこで買ったの?」
「は?」
「ロンT」
「え? さぁ、どこだろ。覚えてないな」

ジニはなんか英語がプリントされているロンTにジャージでサンダルというやる気のない格好で、
俺はとりあえずでつっこまずにはいられなかった。

「お前、もし俺がお前に告白したいって女の子連れてきてたらどうすんの。もうちょっとやる気出せよ」
「だったら呼び出した時に言えばいいだろ。
 こんな時間に呼び出されてなんで部屋着にダメ出しされなきゃならないんだ」

少し眠そうな顔で俺を睨むジニ。
さっき電話した時、ジニはバリバリ寝起き声だった。
寝起きっていうか普通に寝てたんだろうけど。

「その本なんだよ。エロス本か?」

ママチャリのカゴに本が入っていたので聞いてみると、
ジニはどうでもよさそうに「お守り」と答えた。

91 :ニコフ川д゚) ◆nikov2e/PM :2008/08/07(木) 01:06:23 ID:???
ぽっしゅ

92 :おいら名無しさんヽ(´ー`)ノ:2008/08/07(木) 01:08:35 ID:???
N.Y

とか書いてありそうだ

93 :まりあ ◆BvRWOC2f5A :2008/08/07(木) 01:10:07 ID:???
なにがやねんと詳しい説明を求めようとすると、ジニはそれを遮るように口を続けて開いた。

「それで……なに? わざわざ呼び出してまで何の用だ」

呼び出すほどの価値がない用事ならすぐに帰るぞ……と、ジニの目が訴えている。

「直球だな」
「そりゃそうだよ。もう一回言うぞ。何時だと思ってんの」

ママチャリのサドルに跨ったままのジニはそっけない。
当たり障りのない会話から始めて徐々に核心に迫ろうと思ったのに。

「とりあえず登ってこいよ」
「嫌だよ。なんかキモいだろ」

確かに。
真夜中にジャングルジムの上で並んで座る男子中学生とか不気味過ぎる。
万が一知り合いに見られたら明日からよそよそしくされるかもしれない。

「メシ食った?」
「食ったよ。……お前は? ちゃんと食べたんか」
「お母さんかよ」
「普段馬鹿ばっかやってふざけてるわりにメンタル弱い幼馴染み持つと心配事が尽きなくてね」
「うわ、キモッ! 見透かすなよ」

94 : ◆K.tai/y5Gg :2008/08/07(木) 01:11:47 ID:???
どうでもいいけど、かがみはドラマ化できるよね

95 :まりあ ◆BvRWOC2f5A :2008/08/07(木) 01:14:48 ID:???
なんかキモい空気に包まれて笑う俺とジニ。
心底キモいけど今日だけはこれぐらいのむず痒いやりとりも仕方ない。

「……ニュース見た?」

呟くように切り出したのはジニだった。
俺は黙って頷いたが、辺りが暗かったので俺の仕草が見えなかったらしく
ジニはもう一回「ニュース見た?」と声を大きくして言うのでちょっと間抜けに思えて俺はクスリとする。

「なに笑ってんだ」
「あ、見たよ。見た見た」
「──うん」

急に空気が重くなったのがわかる。
なんとなく夜空を見上げてみると星が綺麗だったがそれぐらいのことじゃこのムードは払拭出来ない。

「何なんだろうな」とジニ。それを受けて「何なんだろうな」と俺。
続けて「どう思う?」と俺は聞くがジニは答えない。
俺もジニも、今のところ胸の奥の奥の奥の方にほんの少し芽生え始めてるあり得ない可能性を
口には出せないでいるのだ。
遠慮ではなく、それを言ってしまうと取り返しがつかなくなりそうで怖かった。

96 : ◆K.tai/y5Gg :2008/08/07(木) 01:16:25 ID:???
>俺は黙って頷いたが、辺りが暗かったので俺の仕草が見えなかったらしく
>ジニはもう一回「ニュース見た?」と声を大きくして言うのでちょっと間抜けに思えて俺はクスリとする。


いいなこれ

97 :まりあ ◆BvRWOC2f5A :2008/08/07(木) 01:19:04 ID:???
「関係あると思うか」
「“キリサキマサキは一年に一回、一人しか殺さない”」
「しかも女だけ」
「女の人だってな。ニュースだと名前とかまだ出てなかったけど……」

この街で新たに起こった殺人事件。
誰もがキリサキマサキの仕業だと思ってるだろう。

だけどそうすると違和感が生まれる。
今までキリサキマサキが“法則”を乱したことは一度もなかったからだ。

「今年だけ例外が起きた……って考えるのが自然なんじゃないか」とジニは言うが、
その口調はどこか投げやりだった。まるで強引にでもそう断定してしまおうとしているかのように。

「つうかよ。今まで毎年起きてたのも似たような手口だったってだけで
 本当に全部同じ人間がやってたってなんで断言出来るんだ」

毎年事件が起こる度に報道されてきた事実だけを端的にまとめると、
事件は全てこの晴刷市で起こり、被害者は全員女性、刃物で首を切られるということだけだ。
そしてどの事件も未だ犯人が捕まっていない。

そもそもキリサキマサキという呼び名は誰が言い出したのだろうか?
気付けばみんな、俺も、この街で毎年起きる事件の犯人をキリサキマサキと呼んでいた。
そのことに誰も疑問を感じなかっただろう。少なくとも俺はそうだった。

98 :おいら名無しさんヽ(´ー`)ノ:2008/08/07(木) 01:20:01 ID:???
マサキ人気だよなぁ…

99 :ニコフ川д゚) ◆nikov2e/PM :2008/08/07(木) 01:23:01 ID:???
>ロンT

「KIMOHAGE」かな

100 :まりあ ◆BvRWOC2f5A :2008/08/07(木) 01:24:11 ID:???
「発表されてないだけで、警察では全部同じ犯人だって特定出来る何かを掴んでるんだじゃないかな。
 過去のニュースとかでも“警察は同一犯による可能性が極めて高いとみている”って言ってたような」

確かな記憶はないが、俺も聞いたことあるような気がする。
ジニの言う通り一般人には知らされていないこともあるんだろう。

「……とにかく、俺は同じ犯人だと思う」
「同じ?」
「だから……どっちもキリサキマサキの仕業だろ、って」
「本当にそう思ってるか」
「なんだよ。何が言いたいんだ」

ジニは居心地が悪そうにママチャリのハンドルを掴んで俯いてしまう。

「どんな理由があるか知らんけど、キリサキマサキが例の法則を遵守する奴だったとした場合──」
「やめろって。何言うんだ」
「だから、二つの事件の犯人が同じ奴じゃなかったら……お前、どう思うんだ」

はっきり口にするのが怖くて肝心な部分をジニにパスしてしまう俺。
顔を上げたジニは明らかに苦しそうな表情を浮かべていた。

「さぁ……どっかの誰かだろ」

ジニは吐き捨てるように言ってまた俯いてしまう。

101 : ◆K.tai/y5Gg :2008/08/07(木) 01:26:05 ID:???
不穏

102 :まりあ ◆BvRWOC2f5A :2008/08/07(木) 01:28:22 ID:???
「そりゃどっかの誰かに決まってんだろ。問題なのはその“どっかの誰か”が──」
「おい! もうやめろってジェノ」
「──俺らの、知ってる奴だったら……って」
「やめろよ……」

とうとう言ってしまったが、心の中でもやもやしてたモノを吐きだして
すっきりしたかというとそうでもない。
今度は得体の知れない嫌悪感がじわじわと湧き上がってきたからだ。

「あるわけないだろ、そんなの」
「普通に考えたらないだろうよ」
「そんな偶然あり得ないって」
「……偶然」

偶然、とジニは言った。偶然? 
サチコさんが殺したのがキリサキマサキだった場合、それはそうかもしれない。
彼女のような真面目で素敵だった普通の女の子が殺人鬼とどんな因果関係にあるというのだ。
それこそあり得ない。だから俺は誰に言われるまでもなく、彼女を襲った不幸を偶然だと思っていた。
それは今でも変わらない。

ただし、彼女を殺したのがキリサキマサキだった場合は、だ。

103 :ニコフ川д゚) ◆nikov2e/PM :2008/08/07(木) 01:28:54 ID:???
常にクライマックス

104 :まりあ ◆BvRWOC2f5A :2008/08/07(木) 01:32:21 ID:???
「おいジェノ、お前なに考えてるんだよ」

ジニがなんか言うが無視。
俺は今、俺の中のどっかでひっかかっている“何か”を見つけたのだ。
それを解きほぐすまでちょっと黙っててほしい。

サチコさんを殺したのがキリサキマサキじゃないとして、それがもしも俺の知ってる奴だったら。
それは偶然か? 知ってる奴を偶然殺すって何かおかしい。日本語が不自由だ。
あれはどう考えても事故じゃない。もし俺の知ってる奴が犯人だとしたなら
そいつは100%の悪意をもって彼女に手をかけたに決まってる。
そもそも殺人鬼・キリサキマサキの存在が異常過ぎたので感覚が麻痺しかけていたが、
人が悪意をもって人を殺すのに偶然なんてあるわけがない。

そしてキリサキマサキじゃないのなら、サチコさんが殺されたのには必ず理由があるはずだ。
それがもしもサチコさんと面識がある奴だったとしたら……。

ちょっと待て。
俺は何を考えてるのか。
いや、考えてるのがおかしい。
俺が考えてるのはあくまで想像であって、何一つ証拠はない。

105 : ◆K.tai/y5Gg :2008/08/07(木) 01:34:28 ID:???
核心来た

106 :まりあ ◆BvRWOC2f5A :2008/08/07(木) 01:37:57 ID:???
本当にキリサキマサキが殺したのかもしれないし、違うかもしれない。
違うとしてもそいつはやっぱりキリサキマサキ並みのイカれた奴ってだけで、
サチコさんが選んだことに意味はないのかもしれない。
そしたらそれは偶然か? という疑問はひとまず横に置いておくとして、
ジニの言うように普通に考えてそっちの方が自然だろう。
例の法則自体が偶々毎年続いてだけで、やっぱり二つともキリサキマサキの犯行である、ということか。

しかし、それでも俺には何かひっかかるものがあったのだ。
今はまだ確信たる証拠は何一つなかったが、キリサキマサキではないんじゃないか、と俺はうっすら思っているのだ。

サチコさんが殺されなければならなかった理由──。
そんなもんあるのか? 事件を知ってからずっと思ってたが、
彼女が殺されるような理由なんて思いつかない。
そりゃ俺の知ってるサチコさんなんて彼女のほんの一部でしかないのだが、
それでも殺されるほど誰かの恨みを買うような子には見えなかった。俺には。

俺には。俺には? そう、俺には見えなかった。
だって俺の知ってるサチコさんなんて彼女のほんの一部……ってまた同じこと考えてる。
でもそれは俺が知らないだけなのだ。
俺が知らないサチコさんを知ってる奴だっているかもしれない。
そいつは誰だ。

107 :ニコフ川д゚) ◆nikov2e/PM :2008/08/07(木) 01:39:09 ID:???
せつねえ

108 :まりあ ◆BvRWOC2f5A :2008/08/07(木) 01:42:13 ID:???
……犯人は知っていたのだろうか。
俺の知らないサチコさんを。

何にも前進していないのにどういうわけか俺の中でひっかかってる何かが
どんどん複雑に膨らんで、そして徐々に形作ってゆく。

“俺の知らないサチコさんを知っている奴”

──を、俺は知っているような気がした。

ぐるぐるぐるぐる頭の中でルーレットが回る。
そいつは一体誰なのか、出てきそうで出てこない。

その時パッと光明が差したが、それは心情的な意味合いではなく
実際に目の前が明るくなったからだった。

「おい、君らそこで何してるんだ」

声の方から強い光を向けられて俺は思わず顔を背ける。まぶしいって。
光が逸れるのを待ってから声がした方を見ると、そこには懐中電灯を持った制服姿の警官が二人立っていた。

「中学生か? 今何時だと思ってるんだ」

警官は高圧的な態度だった。当然だ。
こんな真夜中に公園でたむろしている中学生なんて良い子ちゃんであるわけがない。

109 : ◆K.tai/y5Gg :2008/08/07(木) 01:46:19 ID:???
電話のシーン思い出したけど、、、分からん・・・

110 :まりあ ◆BvRWOC2f5A :2008/08/07(木) 01:46:39 ID:???
「あ、すいません。ちょっと参考書を彼に借りようと思って。
 僕達二人ともこの近所に住んでるんです」

ジニはママチャリのカゴに入っていた本を手に取って警官に見せる。
警官はその本に光を当ててしばらく見てから、今度は俺とジニを交互に観察し始めた。

二人ともやる気のない格好だったおかげか警官はなんとか納得してくれたようだったが、
名前と住所と電話番号とついでに世帯主(ていうか親)の名前までばっちり聞かれた。
ジニが家に連絡されたらどうしようと目で俺に訴えかけてきたのでちょっと可愛いとか思ってしまう。
最後に学校名とクラスを聞かれたので素直に答えると、警官は急に改まったような態度になって
言葉を選ぶように口をもごもごさせ始めた。

「その……あんな事件があったんだから、こんな夜中にウロウロするのは
 危ないってわかるだろう。早く帰りなさい」

なんか気を遣ってくれたのか知らんが、特に怒られたりもせず俺達は丁重に公園を追い出される。
公園を出たところにパトカーが停まっていた。
警官達が車に乗り込むのを見ながら無意識にナチュラルにジニのママチャリの荷台に腰をかけると、
パトカーの中から助手席に座った警官が“降りろ”とジェスチャーで示した。

111 :ニコフ川д゚) ◆nikov2e/PM :2008/08/07(木) 01:47:26 ID:???
あーなるほどぉ

112 :まりあ ◆BvRWOC2f5A :2008/08/07(木) 01:47:50 ID:???
「乗るなよ」

と、恥ずかしそうにジニ。
うっせぇなお前まで。ついだよ、つい。


  ◆


「で」

パトカーが見えなくなってからジニは思い出したように口を開いた。

「なんで俺を呼び出したんだ」

訝しげな顔でジニは俺を見るが、俺は答えない。
別にこいつと会ったからって何がどうなったというわけでもなかったし、
俺も何かはっきりとした答えを求めてこいつを呼び出したんじゃない。

なんでって聞かれたら、そりゃ……なんだか胸騒ぎがして一人でいるのが心細かったからだよ。

言わせんなよ。
言ってないけど。




113 :ニコフ川д゚) ◆nikov2e/PM :2008/08/07(木) 01:50:39 ID:???
萌えた

114 :まりあ ◆BvRWOC2f5A :2008/08/08(金) 01:04:13 ID:???
   3.情報収集



「ところで」

きらたまの部屋を出る前に幾つか聞いておきたいことがあった。

「君が日本に帰って来たのは、お父さんに呼び戻されたから?」
「はい、そうです」
「あぁそう」

ふむ。

「それと先月の事件だが」
「先月? えぇと……」
「ほら、君んとこのなんとか言う幹部が殺されたとか。ヤクザとかけもちの」
「あ、はい。話は聞いてますけど……会ったことはないです」
「ファミリーでは序列的にどれぐらいだったんだ」
「えぇ……? 詳しいことはお父様に聞かないとわからないのですが、
 お父様やお兄様に次いで3番目ぐらいだったんじゃないでしょうか」

適当だな。
まぁいい。

115 : ◆K.tai/y5Gg :2008/08/08(金) 01:08:04 ID:???
みなさんお忘れのユーモリさんですね
俺は覚えてます

116 :まりあ ◆BvRWOC2f5A :2008/08/08(金) 01:08:42 ID:???
「そいつがなんで殺されたか聞いてないのか」
「それは……やっぱりこんな組織だから、じゃないでしょうか」

やっぱり無難にそういうことになってるのか。
心当たりがあり過ぎて、というやつだ。

「君んとこで犯人捜さないのか?」
「一応調べてるみたいですけど……でも、仕方ないんじゃないですか?」
「やっぱり薄情だな君」
「そんなことないですよう。だって知らない人ですし。私が三代目になる前ですし」
「お父さん的にはどうなのかな」
「ですから一応調べてるみたいですよ」

一応、ね。

「あと華鼬との同盟に関してなんだけど……」

と、次の質問をしかけて僕は考える。
違うな。それよりも聞いておきたいのは。

「君が呼び戻されたのは華鼬と同盟を結ぶって話が出たあとか? わかる?」
「はい。三浦が向こうまで直接来て説明してくれたのですが、
 そのつもりで私を三代目にするから、とのことでした」
「ほうほう」

なるほどなるほど。

117 :まりあ ◆BvRWOC2f5A :2008/08/08(金) 01:13:00 ID:???
「お父さんの引退の理由」
「疲れた、と冗談ぽく笑ってました」
「年齢的な意味で?」
「年齢的な意味で」

だんだんやりとりが簡略化してきた。

「お兄さんがファミリーとは別で変な組織作ったって知ってるよな?」
「はい。聞いてます。お兄様も特に隠れて、というつもりもないようです」
「放っておくのか? お父さんはなんて?」
「良くは思っていないみたいですけど……」

きらたまが少し困ったような顔をした。
それを見て僕はだいたい把握する。

118 : ◆K.tai/y5Gg :2008/08/08(金) 01:14:22 ID:???
だいたい把握できねえよ

119 :まりあ ◆BvRWOC2f5A :2008/08/08(金) 01:17:44 ID:???
「ところで関係ないけど三浦って何なの?」
「えー? なんでしょう。お父様の付き人兼使用人兼私のボディガードのような……」
「マルチだな」
「なんでも出来るんですよ三浦って。クッキー焼くのすごい上手なんです」
「いつからいるの?」
「話すとすごく長くなりますけど……」
「あ、じゃあいい」

こんなところだろうか。

「最後に、お父さんとお兄さん好き?」
「はい」

あっそう。







120 : ◆K.tai/y5Gg :2008/08/08(金) 01:18:22 ID:???
ん? ここまでか

121 :まりあ ◆BvRWOC2f5A :2008/08/08(金) 01:23:09 ID:???
   4.君は月見て何を想う



「お前、ちゃんと家帰れよ」

『死んでも当たりが出ない』で有名な自販機の前でジニはわりと真剣な顔で言う。
お母さんの次は警官気取りか。

「なんでだよ」
「なんでって今何時だと思ってるんだ。今度こそ補導されるぞ」
「ちげーよ。なんでそんなんわざわざ言うんだっての」
「同じセリフ二回言うより、空気的にもう一度言うのは嫌だな」

ジニがなんかツンデレの人みたいですごくキモい。
そう感じるのはやっぱりさっきと空気が違うからだ。

「なんか変なこと考えてないかお前」
「どういう意味でよ」
「色んな意味で」

ジニはめんどくさそうにため息をつく。
そんなに心配されても困る。

122 :まりあ ◆BvRWOC2f5A :2008/08/08(金) 01:28:05 ID:???
「別に何も考えてないって」
「ほんとかぁ……?」

懐疑的な眼差しを向けてくるジニに今度は俺がため息。
後追い自殺しそうとか思われてんのかな。

「ジニ君」
「なに?」
「もし俺が犯人だったらどうする」
「お前! くだらない冗談はやめろって。怒るぞ」

冗談ではない。
『俺が』と言ったのは、自分以外の奴の名前を使うのにとても抵抗があったからだ。

「いいからさっさと答えてよ。早く帰ろうぜ」
「何なんだお前。ほんとになに考えてるの?」
「いいから。仮にだよ仮に。もし俺だったらお前どうする?」

出来るだけさらっと聞いてるつもりだったがジニはじっと俺の目を見つめる。超真剣な顔で。
別に俺のこと疑ったりは全くしてないだろうけどそんな目で見んな。

123 : ◆K.tai/y5Gg :2008/08/08(金) 01:29:43 ID:???
同級生だよなぁ

124 :おいら名無しさんヽ(´ー`)ノ:2008/08/08(金) 01:30:33 ID:???
実は物語が進んでねえとか言うな

125 :まりあ ◆BvRWOC2f5A :2008/08/08(金) 01:31:07 ID:???
「とりあえず、殴る」

それを聞いて俺はちょっと笑いかけたが、ジニは真剣な顔つきのままだった。

「そっか……オッケーわかったよ」
「あぁ」
「じゃ、帰ろか」
「うん」

もちろん俺は犯人じゃないしジニに殴られたくもない。
ただ、もしも犯人と対峙するようなことがあった場合……俺はどうするだろうか?

「お前、ほんとにちゃんと帰れよ!」
「わかったって」
「それじゃ、明日。ていうか今日だけど」

ジニはチャリにまたがり、あっちだぞと言わんばかりに顎で俺の家の方角を示す。
自分ちぐらい覚えてるし。

126 :まりあ ◆BvRWOC2f5A :2008/08/08(金) 01:35:16 ID:???
「学校ちゃんと来いよ。どうせ全校集会だけで終わりだろうけど」
「おう。じゃあの」
「だからなんで竹原やねん」


   ◆


ジニと別れて、俺はちゃんと家に向かって歩きながら夜空を見上げる。
月も星も見えていたし空も澄んでいた。

俺が見上げまくっても夜空は何も答えない。当り前。
だって俺が勝手に見上げてるだけだもの。
答えが返ってくるなら夜空に色々と聞いてみたいが、
なんだか見上げてるだけでアホらしくなってきた。
結構星とか綺麗だったし。空気澄んでるな。秋だね。

人はどうして夜空に想いを馳せるんだろう。
流れ星に向かって早口言葉を言う為か。
感傷に浸る為か。
それとも大猿に変身する為か。満月じゃないけど。
あの夜空の向こうにはもう明日が待っているのか。日付変わったばっかだけど。

127 :まりあ ◆BvRWOC2f5A :2008/08/08(金) 01:36:08 ID:???
ふとハナちゃんのことを思い出した。
あの人はこの夜空を見て何を思うんだろう、とか。
もしかすると俺と同じようなこと思ったりして。

俺ってなんてロマンチックなんだろう。
いや、やっぱキモいかな?





128 : ◆K.tai/y5Gg :2008/08/08(金) 01:39:03 ID:???
おおー

129 :外伝書き ◆X2rQHL2B4w :2008/08/08(金) 02:32:10 ID:???
【5】鉄塔

翌日の昼間、ぬるい冷房のきいた喫茶店で500円の珈琲を飲んでいたら見知らぬ番号から電話がかかってきた。

「もしもし、昨日の人?」
「あぁ、15時に鉄塔公園まで来れるか?」
「行けます。鉄塔公園のどちらに?」
「桜広場のベンチだ。」
「了解です。」

どうやら僕は合格したようだ。
15時であれば時間的に余裕がある。
珈琲をゆっくり飲んでから僕は鉄塔公園と向かった。

130 :外伝書き ◆X2rQHL2B4w :2008/08/08(金) 02:32:42 ID:???
鉄塔公園は昨日のバーからさらに駅と反対方向へと進んでいくと15分くらいの位置にある大きな公園のことである。
正式名はなんたら町第なんたら公園というらしいが、やたらと大きい鉄塔があるので鉄塔公園と呼ばれている。
鉄塔は元は高圧電線用の塔だったが今は配線して塔だけシンボルとして残っているものだ。
毎年やんちゃな子供が無理に登って落ちるので最近策ができて近寄れなくなってしまった。
鉄塔公園にはいくつかエリアがあって、
アスレチック広場、ふれあい動物広場、大草原広場、大池、
森を歩くピクニックコースなんかもある。

そして今回待ち合わせの場所となっているのが桜広場。
春は花見の客で溢れかえるが、夏はそんなに人はいない。木がズデズデと立っているだけで特に何もないからだ。
公園は木々に池、川なんかもあるせいか若干涼しい。
やっぱり自然が一番だ。
なんてことは思わない。
ベンチに腰掛けながら何故こんな暑苦しいところで待ち合わせなんか…と恨みがジワジワとたまっていった。
約束の時間の15分も前についたのは明らかに失敗。
また夏を甘く見ていた僕の負けである。

131 :外伝書き ◆X2rQHL2B4w :2008/08/08(金) 02:33:14 ID:???
15時ピッタリに男はやってきた。
今日も昨日と似たような雰囲気な格好、手には平たい鞄を持っている。まるで会社員だ。
男は僕の横に座り、鞄から書類を出して渡してきた。

「だいたいのことはここに書いてある。」

僕は書類を受け取り、さらっと眺めてみた。
大洋組の作るものと違い結構しっかりとした体裁をしているようだ。男の仕事の細かさが伺える。

「簡単に言えば空き巣だ。もし見つかれば留置所より辛いところが待っている。そのリスクに対する200万だ。」

空き巣に入る先が書類に書いてあった。
この名前には見覚えがある、同業者だ。しかも結構大きい。
確かに見つかればただ死ぬだけでは済まされない事態になりそうだ。

「命の値段…200万か。安いな。」
「しっかりやれば不可能ではないだろう。」

どんだけ僕を高く見積もっているんだろうかこの男は。
泥棒仕事は何度かやったことはあるが、こんだけ有名所となるとそれなりにセキュリティも甘くはないだろう。
死にたくなければここで断るべきか…。

132 :外伝書き ◆X2rQHL2B4w :2008/08/08(金) 02:33:45 ID:???
「今うちの者でそれにまわせる人間が空いていない。
 失敗すればよりガードは固くなり、余計に”可能な人材”の確保は難しい。
 わかるな?」

もし見つかって、さらにもし生き延びて逃げることができたところでこいつらに捕まるわけか。
失敗=死の方程式が一層強まる。
これで200万は体感で言えば正直安い。
しかし背に腹は帰られない。

「必要経費別で250万なら」
「いいだろう」

あっけなく商談が成立してしまった。
この男かなり安く見積もっていたようだ。300でもいけたか?悔しさを噛み締める。
しかし請けてしまったらもう後には戻れない。
男は立ち上がりさっさと行ってしまおうとしていた。
僕は、前3メートルくらいの位置まで行ってしまっていた男に慌てて声をかける。

「あ、名前は?聞いてもいいですかね?」
「吊だ。」

男は振り返りもせず言い捨て、そしてまたスタスタと去っていってしまった。

「吊…ね。やっぱりあの人もヤクザなのかな。」

呟いて空を見上げる。
ギラギラと輝く鉄塔が視界に入った。





133 :外伝書き ◆X2rQHL2B4w :2008/08/08(金) 02:34:17 ID:???
部屋に戻り扇風機をつけてよく冷えた麦茶を用意する。
机に受け取った書類とノートを用意した。
これからまず書類を熟読し、泥棒の計画を立てなければいけない。
いやはや面倒なことになった。なんでこんなことしてるんだろうか。
それもこれもシニアのせいだ。
シニアがうっかりうちの金融から金を借りたりなんかするから僕がこんな面倒なことに巻き込まれている。
本当に簡便してほしい。
どうせなら他のとこから借りて、そして勝手に人生に終焉を迎えてほしかった。
そうすればシニアとはいつまでも仲の良かった友達でいられたのだ。

「世話のやける…」

麦茶を飲んで扇風機に大きくため息をつく。
ブォンとため息は押し返された。





134 :外伝書き ◆X2rQHL2B4w :2008/08/08(金) 02:34:49 ID:???
ターゲットは関東隔離組。
関東全域で活動する巨大なヤクザである。

危険度はさほど高くないが管理能力が高く、堅実な経営に特徴のある組織だ。
その性格はセキュリティにも現れているようで、各事務所には本部で考案された堅実なセキュリティシステムが適用されている。
今回はその中でも比較的大きい事務所に忍び込み、金庫から顧客名簿を盗み出すのが仕事となる。
顧客とはうちで言うシニアのようなもので、ようは金を生む人間達のリストである。
おそらく個人情報と金の絞り方などの情報が詰まっているのだろう。
これを使って何をやろうとしているのかは知らないが、僕はこのリストのために命をかけようとしているのだ。

吊から渡された書類には、
その事務所に所属する構成員がわかるだけ書いてあった。
と言ってもしっかり書いてあるのは5人程度で、あとは盗撮写真程度。
しかも総所属人数からすれば半分程度しかカバーできていない。
こんな中途半端な情報に頼り切っては逆に危険な気もする。
詳細の書いてある5人はどれも幹部クラスの人間のようで、
名前等個人情報、ハッキリと顔のわかる写真、経歴、伝説、人によっては家族構成まで書いてある。
この幹部達は事務所的には所長や課長となっているようだ。
大きなヤクザだと会社ごっこも本格的だなぁ、うちなんか外面すら兄貴や親分だ。
ちょっとうらやましいなと小さく思った。

135 :外伝書き ◆X2rQHL2B4w :2008/08/08(金) 02:35:22 ID:???
あとセキュリティシステムについて、
入り口は電子ロックされていて暗証番号を知らないと入れないようになっている。
暗証番号なんて誰かが入るところを遠くから盗み見ればいいからザルシステムである。
そして事務所内には監視カメラがいくつか設置されているようで、
ライブカメラとして撮影された画像が本部にある警備部門に送信されている。
本部の警備部門では監視役がいて、何かおかしいことがあればすぐに援軍を送るようになっているらしい。

事務所内には、昼はもちろん夜間でも最低5人程度は常にいるらしい。
昼には昼の仕事、夜には夜の仕事、朝方にはもちろん朝の仕事というものがあり、
ヤクザというものは24時間活動しているものなのだ。
そして関東隔離組のすごい所は、事務所内に必ず幹部クラスが一人滞在していることが義務付けられている。
おそらく下っ端が悪さをしないようにプレッシャーをかけるためだろうが、これはやりづらい。
幹部クラスというと相当な経験をお持ちになっていらっしゃるはずだ。
もし乱闘なんてことになれば僕一人では簡単にやられてしまうだろう。
(銃なんぞ持っているかもしれないし、そもそも数人相手に一人で堂々と戦ったんじゃどう考えても厳しい。)

金庫については場所も含めて詳細はわかっていない。
おそらくボスの机の近くとか応接室とか、なんかそれらしい場所にあるのだろうが、
せめて見取り図でもあれば金庫探しも素早くできるのだがそんなものは書いてない。
それに、そもそも金庫にリストが入ってるかも確定しているわけではないそうだ。
所長が肌身離さず持っているかもしれないし、
下手すりゃそのへんの机に放り投げられているかもしれない。
大事な大事な生命線となる書類である、そんなことはないだろうが…
この金庫の暗証番号を入手しておいてくれれば随分と楽になったと思うが、
残念ながらわからないと書いてある。




136 :外伝書き ◆X2rQHL2B4w :2008/08/08(金) 02:35:54 ID:???
ここまで調べておいて実際に盗むのを外注なんてしていいんだろうか…
もし失敗すれば二度と盗めなくなりそうだし、ここまでの調査がもったいないじゃないか。
そんなに人手不足なのか?

人のいなくなることのない事務所。
本部での監視も常時されている。
さらに金庫の暗証番号はわからないし、あけたところでそこに書類があるとは限らない。
関東隔離組に入ってしまえば色んなことが楽になるかと思うが、一度入ったら抜けられないのがヤクザである。
それに入れたところで違う事務所に入ったらおしまいだ。
そんなリスキーなことできるわけがない。

「これはちょっと難しいぞ。」

僕はあっという間にぬるくなった麦茶をゴクゴクと飲み干した。

「期限が無いのがせめてもの救いかな…」

言ってはみたけど嬉しくもなんともなかった。



137 :外伝書き ◆X2rQHL2B4w :2008/08/08(金) 02:36:49 ID:???
以上。次回、「2階」

138 :外伝書き ◆X2rQHL2B4w :2008/08/08(金) 05:54:08 ID:???
【6】2階

吊とあってから二日後の朝、僕はブルーカラーに身を包みハイエースで関東隔離組の事務所へと向かった。
事務所は少し古めの貸しビルの2階に入っている。
僕はハイエースを貸しビルの横につけ、車の中から色々な工具を持ち出した。
工具をポケットやら鞄やらに押し込み、手にはゴム手袋、頭にはヘルメットをかぶり、貸しビルの横にたっている電柱の前に立つ。
見た目はしっかり工事のお兄さんだ。
しかし作業着に会社名も何もないので見る人が見れば違和感を覚えるだろう。
作業はすばやく済まさなければならない。

僕は電柱の穴にボルトを差し込んで足場を作りテキパキと登っていった。
電柱のてっぺんにあるでかい箱のところまできて、腰のポケットからドライバーを取り出し、
でかい箱の下にある電線についている小さい箱をあける。
中からケーブルやらコネクタやらの山があらわれる。

139 :外伝書き ◆X2rQHL2B4w :2008/08/08(金) 05:54:45 ID:???
次に胸ポケットから秘密装置を、腰ポケットからペンチを取り出す。
この秘密装置、端子函取付式傍受装置といい、ケーブルにとりつけることで通信をコピーして分岐することができる。
つまりこの装置によって電話やインターネットデータの傍受が可能なのだ。
ケーブルを目で追い2階から伸びている線に狙いをつけ、そのケーブルのカバーをペンチで剥ぎ銅線の束をあらわにする。
複数ある銅線をペンチで切断しせっせと一本一本装置と接続させる。
今、2階は電話もインターネットもできない状態だ。
もし今電話をしていたら切れているはず。
これが長引くとヤバイ。
装置とつなげ終わったら次はもう一方の切断面も同様に装置と接続させる。
急いでかつ接続箇所を間違えないように気をつけなければいけない。
一本でも間違えればケーブルが機能しなくなる。
2分もかからないうちに全ての線をつなぎ終えた。
昨日一生懸命やった練習の成果が出た。

140 :外伝書き ◆X2rQHL2B4w :2008/08/08(金) 05:55:17 ID:???
続いて秘密装置に分岐線用のケーブルと、強力な電池を電源としてつなげてスイッチON。
これで秘密装置は作動しているはず。
僕はケーブルをまとめている箱を閉じ、新しく繋げたケーブルを下に垂らし電柱を降りる。

僕は一旦ハイエースと戻り、中からノートパソコンを持ってきた。
ノートパソコンにさきほど垂らしたケーブルを繋げて自作のソフトを起動する。
このソフトはケーブルから流されてくるデータをひたすら蓄積するだけの簡単なソフトだ。
そのまま15分間データを取り続ける。

「えっと…異常なーし」

誰が聞いているわけでもないが、
電柱の横でノートパソコンをいじる姿はどう見ても怪しいと思ってしまい、
なんとか取り繕うとついついボソボソとわけのわからないことを言っていた。
電線からコード引っ張ってノートパソコンに繋げるなんてデータ盗む以外にやる必要のないことだからだ。
その後ろめたさから自らを怪しいと感じてしまっていた。

141 :外伝書き ◆X2rQHL2B4w :2008/08/08(金) 05:55:51 ID:???
この15分が長い。
実にドキドキする。
しかも日差しは強くなってきてヘルメットの中から汗が滝のように流れ出してきていた。

この秘密装置のいいところはデータを受け取ることはできてもこちらから何かをすることはできないことだ。
難しい話になるので省くが、
こちらから向こうを見ることができても、向こうからこちらを見ることは物理的にできないし、
そもそもこちらの存在に気付けないのだ。

15分がたった。
もう暑さで頭がクラクラしている。
ケーブルをノートパソコンから外して車に置きに行き、
また電柱をのぼって秘密装置を外す作業をする。
すべて何事もなかったかのように元に戻す。
一度切断してしまったケーブルは元に戻せないので単純な延長用コネクタで取り繕う。
もし電話会社の人とかがこれを見ればハテナと思うだろうが、
定期的にチェックをするようなものではないし、新しく配線するようなことでもないと開けることはない。
しかし貸しビルなのですでにあらかた配線済みのはずだ。
心配するに値しないレベルの問題だろう。
僕の仕事が終わるまで誰も気付かなければそれでいいのだ。

とにもかくにもこの暑く辛く地味な作業が終わった。
僕は工具を車に投げ入れ早々に立ち去った。

「クーラー…」

ファミレスにでも寄ろう。
僕の頭の中はクーラーでいっぱいだった。




142 :外伝書き ◆X2rQHL2B4w :2008/08/08(金) 05:56:22 ID:???
ワイミーズという名のファミレスへとやってきた。
ここは喫茶店以上銀行以下というとても快適な温度設定の素敵な空間である。
夜でなければさほど人はいないし、角に座れば誰にも覗かれることなくノートパソコンを使える。
入る前に車の中で汗でびっしょりになった青いツナギを脱ぎ、ファミレスに違和感のない服装に着替えた。

「いらっしゃいませー!」
「お一人様ですかー?お好きな席にどうぞー!」

ええ、ええ、言われなくても勝手に座りますとも。
角の席でなければ話にならない。
店の一番奥の角席へと向かった。
しかし、そこには先客がいたのだ。

シニアだった。



143 :外伝書き ◆X2rQHL2B4w :2008/08/08(金) 05:56:54 ID:???
「何してんだよ…」

まさかこんなところで会うとは思わなかった。
同じ町に住んでいるのだからこういうこともあるだろう。
もしかしたら今までも気付かないだけで会っていたのかもしれないとも思う。
しかしこれから仕事をしようっていう僕の前にわざわざ現れなくても…

「あ、イノセンス?偶然?やった、おごって!」
「おごってやるからお前ちょっと席反対側に移れ」
「え?マジ?!うんうん。ちょっと待って」

シニアはテーブルの上にある料理をガチャガチャと動かし、自らも反対側の席へと移った。
僕はその空いた角席へとすわりノートパソコンを開き、まずは涼んだ。
ボーっとシニアを見る。
この前部屋にいったときはヨレヨレの薄汚れたねずみ色のシャツにえらくイモいジャージをはいていたが、
今日はよくわからない英語の書いてある黄色いチューブトップにハーフのジーンズ。
髪もボサボサじゃないし、灰もかぶっていない。
見た目に涼しげでよろしい。
しかしナポリタンは少しやめてほしかった。
胃液が少しだけこみあげる。

144 :外伝書き ◆X2rQHL2B4w :2008/08/08(金) 05:57:28 ID:???
「何やってんの」

別に興味は無かったが一応聞いた。

「ご飯食べてるに決まってんじゃん!なんだよ!飯も食うなってか?!」

何故かキレられた。
言い返すのが面倒だったので眉間に皺を寄せるだけして僕はメニューを開いた。
暑さでやられた脳がフリスクサラダに興味を示す。

「確かに爽快感はある…しかし…ッ!」
「フリスクサラダ頼むの?やめてよ!マジあれ見てるだけでヤバイし!」

店員が水を持ってやってきた。

「ご一緒ですか?ご注文お決まりでしょうか?」
「えっと…とりあえず…オレンジシャーベット。ご一緒でつけちゃっていいです。」

僕はメニューを閉じて水を一気飲みした。

「あと、お水おかわりお願いします。」
「セルフとなっております。」
「あ、そうだっけ?シニア行ってこい。」

僕がコップをシニアの方に差し出すとシニアは近年稀に見る面倒くさそうな顔をした。
ここで何とか言いくるめるのもそれはそれで体力を使いそうなので僕は自分で水を取りに行くことにする。
本当に使えないやつだこいつは…何から何まで…。


145 :外伝書き ◆X2rQHL2B4w :2008/08/08(金) 05:58:20 ID:???
水の在り処を探すのに手間取り戻ってきた頃にはアイスがもう来ていた。そしてシニアに食われていた。
この世界は僕だけ残して超高速でまわりつづけているようだ。
僕はもうだいたいのことを諦めた気持ちになった。
近くにいる店員さんに「オレンジシャーベットもう一つあそこに」と言ってから僕は席に着く。

「お前さっさと例の男と別れろよ」
「なんでよ」
「なんでも」

ノートパソコンを起動し、データ解析の作業をしながらシニアを説得する。
何気に一石二鳥になって良かった。

「お前がさっさとあの男と別れないから俺は色々と面倒なことになってるんだよ。」
「別に頼んでないし!」
「じゃあ金返せ。」
「それは無理だし!ねえ、なんとかならないの?月10万なら何とか払うよ!ねっ!」
「10万じゃ意味ないんだよ。お前自分の立場わかってんの?ねえ?そんな悠長なこと言ってらんないんだよ?」
「無い袖はふれませ〜ん☆」

シニアが袖をふる仕草をしながら阿呆面を曝け出す。
何おちゃらけて言ってるんだこいつは。
僕は目つきも真剣に眉間に皺を思い切り寄せてジッとシニアを睨み付けた。

「なんだよう…ちょっとふざけただけじゃんか…」

シニアは変わらず無い袖を振りながら、顔だけ困ったような表情に変化した。
段々と手のフリが小さくなり、自分の肩のあたりをなでるような意味のわからない動きとなった。

146 :外伝書き ◆X2rQHL2B4w :2008/08/08(金) 05:58:58 ID:???
「マジでやばいんだ。わかってくれ。」

それだけ言って僕はノートパソコンに目をうつし作業を再開した。
シニアは少しうつむいてフォークでナポリタンのウィンナーをいじっている。
無言の二人の間に、タイピングのカタカタという音だけがしていた。

「オレンジシャーベットおまたせしました。」

待望のシャーベットがやってくる。
僕はさっそくそれをいただき、冷たさを鼻の頭と舌で感じて幸せな気持ちになった。

「だからさ、そんな急に別れるってのも難しいと思うけど、そういう方向で考えておいてくれないかな?」
「うん」

元気のない声で返事がくる。

「死にたくないならな」
「死ぬの?!」
「場合によっては」

死ぬことはないが少し脅しておいた。
シニアは真に受けて青ざめた顔をしてうつむいている。
なんだか懐かしい感じがした。

147 :外伝書き ◆X2rQHL2B4w :2008/08/08(金) 05:59:36 ID:???
「なんで笑ってるの?」

ちょっとムッとした顔でこちらを睨んでいる。
いつの間にやらにやけていたようだ。

「少し…昔を思い出してさ」
「なにそれ」



そのままダラダラと説得しつつ、作業しつつ、で夕方までワイミーズにいた。
外も体も涼しくなったようなのでシニアを送って家に帰る。
作業は夜中までかかりそうだ。
不思議な充実感のせいでやる気が沸いてしまったし、
「さてと」と息を吐いて僕はまたノートパソコンと格闘するのだった。

148 :外伝書き ◆X2rQHL2B4w :2008/08/08(金) 06:00:07 ID:???
以上。次回、「丸裸」

ストック消滅

149 :外伝書き ◆X2rQHL2B4w :2008/08/31(日) 21:13:38 ID:???
【7】丸裸

盗み取ったデータを事務所から出ているデータだけにふりわけての解析した結果、
まず暗号化なんてものを全然していない、つまり丸裸のデータがインターネットに飛び出ていたことがわかった。
所詮はヤクザか。
散々セキュリティに気をつけておきながらこれだ。
ちょっと評し抜けてしまったが、作業がかなり楽チンになるので僕としては良し。

やりとりされているデータは、
おそらく入退室の記録情報、カメラ画像(映像ではなく断片的な画像ファイルが送信されていた)くらいだった。
あの15分の間に拾ったデータだけなので、他の時間に何かをしているかもしれないが、
セキュリティうんぬんと吊の書類には書いてあったわりには大したことはやっていないようだ。

重要なのはカメラ画像。
これで事務所内の様子がわかる。
今回こんな苦労してデータを盗んだのはこの画像のためだ。

数箇所に配置されたカメラの画像からオフィスを地図におこしていく。
残念ながら金庫は写っていなかったので、配置から金庫のありそうな場所を推定するしかない。
配置を頭に叩き込んでおけば、盗みに入るときに迅速に行動できるし、
もし乱闘になるようなことがあればどこに何があるかの情報が役に立つ。

150 :外伝書き ◆X2rQHL2B4w :2008/08/31(日) 21:14:24 ID:???
おこした地図から推定される金庫の場所は数箇所。
地味に広いこのオフィスで一瞬ですべてを見回るのは厳しそうだった。
さらに金庫を見つけたところで開けられるとも思えない。
強引な手を使えば金庫ごと盗み出して地道にあける努力もできるだろうが、
そんな大事をやらかせば事務所は厳戒体勢に入ってしまい、
「うっかり金庫に顧客名簿がありませんでした」
なんてことになればアウト。完全にアウトである。
もう二度と盗みに入る隙はできないだろうし、
人員も増やされて殴りこみも不可能なレベルになる。

おそらく吊は他の事務所に対しても似たようなことをしているだろうし
(顧客名簿一つじゃ大した実にもならないだろうと僕は推測する)
ここはどうしてもこっそり仕事を成し遂げる必要があるのだ。

なのでやっぱり金庫の暗証番号が必要になる。

「まいったな…暗証番号なんてどうやって手に入れたらいいんだ…」

吊の資料にあるボスの情報によればそこそこ用心深く慎重な人間のようで、
うっかり暗証番号を漏らすようなことは望めそうにない。

ぱらぱらと吊の資料を見つめていた僕は一人の幹部が目にとまる。
大した情報のかかれていない人間だが、そこそこによく撮れた顔写真が一枚。
僕はこの手の顔の人間を知っている。
人相からにじみ出るオーラ…確証は無いが、こいつは大雑把に違いない。
こいつから何とか道を開けないか…。

151 :外伝書き ◆X2rQHL2B4w :2008/08/31(日) 21:15:09 ID:???
と、悩み始めたところで僕はとうとうパンクした。
暑すぎるのだ、この部屋は。
今日は7月21日金曜日、世間は週末様へと明るい気分をたくわえている頃。
そんなことを思うと途端にやる気がなくなった。
僕も休むべきだ。休ませろ。
これ以上愚痴が頭の中を駆け巡ると段々とシニアを殴りたくなってくるのでやめる。

「とにかく今必要なのは休養!」

Tシャツにジーンズ、髪は適当でいいや。
地味に暑苦しい夕空の下へと飛び出した。
まずはシニアを殴りにいこう。
僕は自主的に華の金曜日へと突入するのだった。

152 :外伝書き ◆X2rQHL2B4w :2008/08/31(日) 21:16:39 ID:???
以上。次回、未定。
あまりにやる気のない文章に自ら凹む展開

153 : ◆K.tai/y5Gg :2008/09/01(月) 00:22:39 ID:???
なんだこの人元探偵か
お疲れ様でした

154 :外伝書き ◆X2rQHL2B4w :2008/09/06(土) 17:01:17 ID:???
【8】掃除

夜中にシニア宅を訪ねてみたが不在だった。
ドアの鍵は随分としょぼいもので簡単に開いたので中に居座る。
生意気にもクーラーがついてたので22度設定でガンガン冷やしてやった。

とくにすることがないので部屋をボーっと見回すが相変わらず汚い。
カップラーメンが汁が残ったまま放置されていたり、
その中にヨレヨレのシャツが手を伸ばしていたり、
本の間からサキイカが飛び出していたり、
布団らしきものの上に堂々と灰皿がひっくり返っていたり…

金目のものを探すついでに掃除をしてやろうと思い立ち、
コンビニにゴミ袋とビニール紐を買いに走った。
ついでに缶コーヒーを二つ買う。
シニアが帰ってきたら綺麗な部屋に乾杯といこう。

155 :外伝書き ◆X2rQHL2B4w :2008/09/06(土) 17:02:09 ID:???
戻ってきて缶コーヒーを冷蔵庫に入れようと扉を開けると、そこにはユートが3冊冷やされていた。
そして他には何も無かった。
いらないだろこの冷蔵庫。
モワモワと冷気を吐き出し自己主張をする冷蔵庫が何だかとてもかわいそうになってくる。
コンビニ袋から缶コーヒー二つを出して突っ込んでおいた。

部屋を今一度見回して汚れの原因を考える。
服・本・食べ残しの散らかりがひどい。
まず放っておくと大惨事になりそうな食べ残しをどんどんゴミ袋に突っ込んでいく。
流しと部屋を行き来するのが意外にしんどい。
くるくる回って酔いそうだ。

危険な食べ物群をそこそこ片付けたら次は散らばる洋服である。
適当にたたみながら壁に立てかけてあった何かのダンボールに詰め込んでいく。
ダンボールがいっぱいになったら閉じてその上にまたダンボールを開いて詰め込む。
同時に散らばる漫画や本をビニール紐で次々と束ね、物を置ける空間のあったキッチン横に積み上げていく。

やっとのことでカーペットが見えてきたがまだらに灰色に汚れている。気持ち悪い。
最初カビかと思って帰ろうかと思ったが、どうやらタバコの灰のようだ。
灰皿をひっくり返した上に物が積み重なってカーペットにこすりつけられてしまったのだろう。
これはどうしようもないので無視することにした。

156 :外伝書き ◆X2rQHL2B4w :2008/09/06(土) 17:03:02 ID:???
まったく…19の女の子の部屋とは思えない。
彼氏はこの部屋にきて幻滅しないのだろうか…。
紐だから強くいえないのか、はたまたこの部屋に招きいれたことがないのか。
この部屋を見て幻滅して姿をくらましてくれたら楽なのになぁ。



とかぼんやり考えていたらドアの開く音がした。


「おお、おかえり」


ドアの前には眉が変な形にまがってるシニアが立ちつくしていた。
手にはコンビニの袋をさげている。朝飯か?
時は午前5時になろうとしていた。


「おまっ…何してんだよ!」
「何って、部屋掃除だよ」
「そうじゃなくて!!!あああもう!なんで?!鍵かかってたよね??」
「あんなん鍵って言えるようなもんじゃないぜ?中学生でもあけられるよ」
「あけんなよ!!」


ドシドシドシとシニアがこちらに迫ってくる。
なかなか素敵な形相をしていらっしゃる。


「あああああ!!しかもなんか部屋片付いてるし!結構片付いてるし!!」
「いいことじゃねーか」
「よくねーよ!何ベストポジション崩してんだよ!!」

157 :外伝書き ◆X2rQHL2B4w :2008/09/06(土) 17:03:53 ID:???
綺麗にしてやったのに何キレまくってるんだこの女は。
これがキレる10代って奴か?いや、最近話題のアレは17歳か。ちょっと年いきすぎてるな。


「まあまあ、飯食うんだろ?パソコンデスクのキーボードどかして食ってろよ。今床は片付け中だからな。」
「あ、うん。」


何故かおとなしくパソコンデスクにコンビニ袋を置きガサガサと飯を取り出していた。
小さめなコンビニ弁当が出てくる。
案外小食なのか。


黙々と片付けるガサゴソ音と、黙々と食事をとるモグモグ音が素敵なメロディーを奏でない。ただの生活音だ。


「あのさあ、なんでいんの?なんか用?」


モグモグしながら僕の背中から話しかけてくる女がいる。
おなかが満たされつつあるせいか先程のキレっぷりは幾分消えていた。


「別に用はないんだけど…様子見にきた感じかな?」


ふぅんと言い食事を続ける。
こいつの関心は2秒ごとに転居を繰り返しているのか、
どこに重心を置いて思考しているのかがいまいちわからない。
キレるなら最後までキレ通してほしい。

158 :外伝書き ◆X2rQHL2B4w :2008/09/06(土) 17:04:47 ID:???

「んで掃除してんだけどさ、結構本あるのな。あれ売って借金の足しにするから」
「んあああ???」


耳に嫌な感触がした。
手で触れてみるとやはりご飯粒がついていた。
僕は少しげんなりしながら振り返り、ご飯粒を人差し指につけてゆっくりと背中の人に向けて突き出していった。


「ああ、ごめんごめん」


僕の指にあるご飯粒を箸でつまんで食べた。
無駄に器用だな、こいつ。


「売るってどういうこと?」


食事終わってから落ち着いて話せと思った。ご飯飛ぶし口の中見えて汚いから。


「売るってそういうこと。売るんだよ。お前は文句の言える立場じゃない。俺が売るって言ったら売るんだ!」
「マジやめてほしい。」


真剣な顔してこっちを見つめてくる。
頭おかしいとしか思えない。
文句言える立場じゃないって言ったばかりなのに何故こうも堂々と文句を言ってくるのだろう。



159 :外伝書き ◆X2rQHL2B4w :2008/09/06(土) 17:05:41 ID:???

「そうは言っても売るので」


僕は無視をして最後の本の束を縛り上げてキッチンへ持っていこうとした。
それをシニアは「ま、待ってぇ、せめてユートだけは!」と止めに入る。
ユート?ユートなら冷蔵庫だ。そういえばあれは片付け忘れていたな。
そんなにユートがお気に入りだとは思わなかったぜ。


「冷蔵庫にあったよ。んじゃあれだけ残しとくよ」
「は?なんで冷蔵庫に入れてんの?」
「知るかよ!お前だろ!!」


怒鳴りながら本を置き、冷蔵庫からユートと缶コーヒーを出した。
シニアはもう弁当を食べ終わっていて、容器をコンビニ袋に突っ込んでまた床に転がしていた。
僕はそれを拾い上げわざとらしく大きいゴミ袋に突っ込んだ。
奴は何故か少し嫌そうな顔をした。ふざけんな。


160 :外伝書き ◆X2rQHL2B4w :2008/09/06(土) 17:07:19 ID:???

シニアにユート3冊と缶コーヒーを渡す。


「何これ?デザート?」
「うん、部屋片付いておめでとう記念」
「あんがと」


少し綺麗な空気になったこの部屋にカポッという音が連続して響いた。


「乾杯」


カッといまいちな音が鳴った。
僕はシニアに背中を向けて灰色まだら模様の床に座り込み、缶コーヒーをゴクゴクと流し込む。
久しぶりの水分が随分とうまく感じた。

喉の音が適当な感じに聞こえる。
あとは朝方のよくわからない鳥の音がちまちまと鳴りいれてくるだけだった。
なんとなく無言の時間が続いている。
お互い疲れているのだろう、それはそれでかまわないといった具合にそのまましばらく続いていた。


「彼氏さぁ」
「あ?」
「この部屋きたことあんの?」
「…あるよ。一回だけ」


161 :外伝書き ◆X2rQHL2B4w :2008/09/06(土) 17:08:09 ID:???

来た事あったのか、うんざりしたんだろうな。
「へー」とだけ言っておいた。
それで別れてくれなかったのが残念で仕方が無い。

会話が終わってしまって、
僕は缶コーヒーを口につけたり離したり、
別に飲むわけでもなく遊んでいた。


「あのさあ」
「あ?」
「彼氏のことさぁ…好きなの?」
「おま…前言っただろうが」


僕は首だけ振り返ってちょっと真剣な顔をする。


「好きなの?」
「おいやめろよそういうの!」


シニアは困った顔をしていた。
こちらを見るのに耐えられなくなり、右を向いて「好きだよ」とちょっと小声で答えた。


「そっか」


つぶやきながら僕はまた背中を向けた。
缶コーヒーを飲み干し、ゴミ袋に投げ入れ立ち上がる。

162 :外伝書き ◆X2rQHL2B4w :2008/09/06(土) 17:09:26 ID:???


「んじゃあ帰るから、ゴミ出すのは自分でやれよ」
「うん」


シニアはまだ中身の残っている缶コーヒーを口につけながら気の無い感じに答えた。
僕はキッチン横にある本の束を3つ持つ。


「全部持てないから残りはそのうち取りにくるわ」
「ああ、別に取りに来なくてもいいよ」


靴を履いてドアを開ける。
特に何も言わずにそのまま出て、扉を閉めた。



少しだけ青くなりつつある空の下を重たい本を持ちながらちんたら歩く。
手に本の紐が食い込んで痛かった。

163 :外伝書き ◆X2rQHL2B4w :2008/09/06(土) 17:10:42 ID:???
以上。次回、「根付」

164 :まりあ ◆BvRWOC2f5A :2008/09/07(日) 00:36:52 ID:???
   5.たかが月見て何を想う



きらたまの部屋を出た僕は廊下のつきあたりにある窓を開けて夜空を見上げていた。

どうしてこんなことをしているのかは自分でもよくわからない。
きっと体の熱を冷ます為に夜風を浴びたかったのだろう。そういうことにしておこう。

この時、月が出ていたか星が見えていたか空が澄んでいたのかは覚えていない。
月も星も澄んだ空もわりと好きだが、それとこれとは話は別だ。

見上げるだけで僕はそこに何かを求めはしないし、
空をキャンバスに見立てて空想を描くわけでもない。
ましてやそこに過去の自分を映し出して記憶を辿ったりもしない。
誰かの顔も思い出さない。

どうして人は夜空に想いを馳せるのか。
流れ星に願いを乗せる為か。
思い出に寄りかかる為か。
はたまた天体フェチか狼男か。
ロマンチックは十人十色か。
こんなことを思う時点で僕も充分過ぎるほどにロマンチック。

窓を閉めて、僕は座玖屋の部屋へ向かった。

165 :ニコフ川д゚) ◆nikov2e/PM :2008/09/07(日) 00:37:53 ID:???
きてたー

166 :まりあ ◆BvRWOC2f5A :2008/09/07(日) 00:41:29 ID:???
座玖屋の寝室は一階の一番奥にあった。
三浦が部屋の前で寝ずの番でもしていたら面倒だなと思ったが、
いなかったので僕は堂々と襖を開けて(和室だった)中に入る。


  ◆


座玖屋は相当深く寝入っていたようで起こすのに10分以上かかってしまったが、
真夜中に突然やってきた僕に対して座玖屋は不愉快そうな態度を示すこともなかった。

ゆっくりと上半身だけを起こした座玖屋はしばらくの間首をぐるぐると回したり
体のあちこちの部位がちゃんとそこにあるかどうか確認するようにぽんぽんと手で叩いていた。
僕は畳の上に正座して座玖屋が落ちつくのを待つ。

「それで……なんですかなこんな夜中に」

ひとしきり体中をまさぐったり伸ばしたりしたおかげか、口を開いた時
座玖屋は寝起きとは思えないほどしっかりした顔つきになっていた。

少しぐらい寝ボケてくれていた方がやりやすかったかもしれないが、まぁいい。

167 :ニコフ川д゚) ◆nikov2e/PM :2008/09/07(日) 00:42:51 ID:???
しえn

168 :おいら名無しさんヽ(´ー`)ノ:2008/09/07(日) 00:43:46 ID:???
 

169 :まりあ ◆BvRWOC2f5A :2008/09/07(日) 00:46:43 ID:???
「腹を割って話そうかと思いまして」
「これはまたいきなりですな」

僕が前置きもせず切り出すと、座玖屋は億劫そうに背筋を伸ばしながら笑った。

「身を引いたとはいえ、座玖屋ファミリーのトップは実質あなたでしょう。
 そして華鼬は僕がトップです。あなたにはお飾りのように見えているかもしれませんが」
「いえ、そんなことはありませんよ。
 わざわざ皆が寝静まった後に私を叩き起こしてまで話をしたいというからには、
 お互いにとって重要な話なんでしょう。ご心配なさらずとも、目は覚めております。
 どうぞお話になって下さい」
「じゃあ単刀直入に。実際のところ、あなたが何を狙っておられるのか確認したい」
「狙う……? はて、何のことやら」

座玖屋が僕の言わんとしていることを既に理解しているのかどうか
表情や仕草からは読み取れなかったが、とりあえずのように首を捻ってみせる
このオッサンの狸っぷりに僕はイラッとくる。

ダメだダメだ。
ここで心を乱してはペースを奪われる。

僕は座玖屋に気付かれぬよう薄く深呼吸をして気持ちを落ち着かせる。
ふぅー。

170 :ニコフ川д゚) ◆nikov2e/PM :2008/09/07(日) 00:48:12 ID:???
こんなにがんばってるボスははじめてだ

171 : ◆K.tai/y5Gg :2008/09/07(日) 00:49:58 ID:???
対決

172 :まりあ ◆BvRWOC2f5A :2008/09/07(日) 00:50:13 ID:???
「──あなたが身を引いた理由。きらたまを三代目に選んだ理由。そして華鼬と同盟を結んだ理由です」
「どうして今更そんなことをお聞きになるのかな」
「答えてください」

いちいち話の腰を折ろうとすんなハゲッ! と叫びたいのを堪えて出来るだけクールにクールに。
質問に質問で返すのは僕もよくやるのだが、自分がやられると本当に腹が立つ。

「まず、私が身を引いたのはそろそろ次の世代にバトンを渡そうと思ったからです。
 これはあらゆる意味を含めてのことです。おわかりかな」
「なるほど」
「きらたまを三代目にしたのは、私の愛娘だからです……というのも勿論ありますが、
 これは華鼬さんとの兼ね合いなどもありますし、それに何よりきらたまこそファミリーのトップに
 座るのにふさわしい器だからです。これは九州さんにはわからないかもしれませんが」

まぁそう答えるしかないだろう。
想定済みの回答だった。

173 :ニコフ川д゚) ◆nikov2e/PM :2008/09/07(日) 00:52:11 ID:???
新ジャンル「her怒boiled」

174 :まりあ ◆BvRWOC2f5A :2008/09/07(日) 00:54:18 ID:???
「今までは鈍堕華氏がNo.2だったと聞きます。
 それにきらたま同様彼もあなたの血を引いていると。
 なのに何故彼ではなくきらたまなのでしょうか」
「アレは少々やんちゃ過ぎるところがありますのでね。
 先に述べましたようにそちら……華鼬さんと上手くやっていくにはきらたまの方がいい、
 と判断したからです」
「しかし彼は納得していないようですが」
「そうですな。頭が痛いところです」

表情がほんの少し曇った気がしたがそれは一瞬のことで、
座玖屋はすぐにいつものうさんくさい笑みを取り戻した。

「華鼬さんとの同盟に関しては……これはそちらも重々理解していらっしゃると思いますが、
 誤解を恐れず申し上げますと、この街に似たような組織は二つも要らない、ということです。
 こんなところですかな。納得していただけましたか」
「模範解答ですね」
「これは手厳しい」

座玖屋はあからさまに困ったような表情を作ってみせた。
もはやこのオッサンの一挙手一投足が演技に見える。

175 : ◆K.tai/y5Gg :2008/09/07(日) 00:54:45 ID:???
いい流れだな

176 :ニコフ ◆nikov2e/PM :2008/09/07(日) 00:56:18 ID:???
ここからだ

177 :まりあ ◆BvRWOC2f5A :2008/09/07(日) 00:58:03 ID:???
「きらたまはこう言っていました。
 “お父様は九州さん達を殺そうとしている”と」
「ほう」
「上手くやれば華鼬を乗っ取ることが出来ますね。
 まぁタイミングが難しいでしょうが、いい案だと思います」
「はっはっは……そうですか、きらたまが……まったく困った娘だ」

座玖屋はいともおかしそうに笑い……って、もういい。
気をつけていたつもりだったが、どうやらいつの間にかこのオッサンのペースに呑まれていたようだ。
このままダラダラと座玖屋に合わせていたら上手いこと言いくるめられかねない。

「──あなたの考えている筋書きはこうだ」

と、僕が切り出すと座玖屋が相槌でも打とうとしたのか口を開きかけたが、
相変わらず半笑いだったのでその隙を与えずに続ける。

「まずは適当な理由をでっちあげて華鼬と同盟を結ぶ。
 そしていい頃合いを見計らって僕やノワを亡き者にしてしまえば結果として完全に一つの組織になる」

一気にここまで言い切ってしまうと座玖屋は開き変えた口を閉じてしまった。
しかしまだここまでなら痛くも痒くもないだろう。
座玖屋は若干目を細めた程度でまだまだ余裕たっぷりの表情だった。
何かしょうもない茶々でも入れてくるかと思ったが、その様子もないので僕は更に続ける。

178 : ◆K.tai/y5Gg :2008/09/07(日) 00:59:08 ID:???
キレろキレろ

179 :ニコフ ◆nikov2e/PM :2008/09/07(日) 01:00:09 ID:???
今殴り合いになったら負けるな

180 :まりあ ◆BvRWOC2f5A :2008/09/07(日) 01:00:33 ID:???
「ただそれには一つ障害があった。それが近頃手に負えなくなりつつある組織のNo,2鈍堕華の存在だ。
 華鼬と同盟を結ぼうとしたのは彼を抑え込む為でもあったのでしょう。
 聞くところによると彼は彼で座玖屋ファミリーとは異なる独自の組織を築いているとか。
 放っておけばいつか本家より強大な力を持つようになってしまうかもしれない。
 いや、そうなることをあなたは確信していたはずです」

言い終えて、一旦座玖屋のリアクションを待つ。

僕が座玖屋の返事を待っていると、それを察したらしく
座玖屋は少し言葉を選ぶように間を置いてからぽつりと言った。

「……要領を得ませんな」

なにがじゃ。
そんなはずがない。
わかっているのにわからないフリをするのはただの思考停止で何の解決にもならない。
この状況で時間を稼ぐ意味もない。
人間、本当に痛いところをつかれるとこのようにわけのわからない誤魔化し方をしてしまうものである。
どうやら僕の考えは当たりのようだ。さすが僕。

「あなたは鈍堕華を恐れているのでしょう?」
「そう見えますか」

座玖屋は否定も肯定もしない。
それだけで僕には充分な答えだった。

181 : ◆K.tai/y5Gg :2008/09/07(日) 01:02:16 ID:???
これ今枕元に隠してある銃とかで九州撃ったら解決しちまわないか

182 :ニコフ ◆nikov2e/PM :2008/09/07(日) 01:02:41 ID:???
なにがじゃ。がいいなぁ

183 :まりあ ◆BvRWOC2f5A :2008/09/07(日) 01:03:26 ID:???
「失礼ですがあなた達家族の事情は大体調べさせてもらってます。
 彼はあなたの息子には違いないが、座玖屋の姓を名乗ってはいない」
「仰る通りです。隠す気はありませんのでそう遠まわしな言い方をされなくても結構です」

つまり愛人の子である、と座玖屋は暗に認めた。
まぁ本当に隠す気もなかったのだろうし、その辺の事情は興味がないので深く追及する気もない。

「彼があなたを憎んでいるのは傍から見ていても明白だ。
 それこそ命を奪いかねないほどに。
 それにあなたも彼もこんな家業の人間だ。
 何かがあって身内同士で命のやりとりになることなんて良くある話です」

再び一旦区切って座玖屋の反応を待ってみたが、返事はない。
特に焦った様子もなかったが、座玖屋の表情にはいつもの癇に障る笑みが浮かぶ気配もなかった。

184 :ニコフ ◆nikov2e/PM :2008/09/07(日) 01:03:41 ID:???
やっぱ華イタチにドンダケを討たせたいからそれはないかな

185 : ◆K.tai/y5Gg :2008/09/07(日) 01:05:17 ID:???
ホントは誰の寝首を掻きたいのかこのオヤジは

186 :まりあ ◆BvRWOC2f5A :2008/09/07(日) 01:06:51 ID:???
「まず、従順で扱いやすいきらたまを跡目に据える。
 その上で華鼬と同盟を結ぶ。当然鈍堕華は反発する。
 が、同盟はもう結んでしまったのだから、彼も表立って仕掛けるのは上手くないと考えるでしょう。
 彼も“この街に似たような組織は二つも要らない”と思っているのでしょうが
 彼は華鼬という組織自体を毛嫌いしているようなのでトップである僕やノワを殺して
 華鼬を乗っ取る、という考えはしていないかもしれませんね。
 もっと言えば、彼は自分がこの街のトップに立とうとしているように思えます。
 どの組織のトップとしてかはわかりませんが……とにかく、彼はこのまま大人しく引き下がるタマではない。
 華鼬と同盟を結ぼうが結ぶまいが、独立した自分の組織を率いて本家を潰しにかかるのは時間の問題だ。
 そうなってしまえば後は生き残りをかけて潰し合うだけです。
 ……仮に今、鈍堕華派によるクーデターが起きたとして、我々と彼の組織、どちらが勝つと思いますか」

最後にはっきりと問いかけてみたが、
ただ刺すような目で僕を見るばかりで座玖屋は答えなかった。

「こちらとしては鈍堕華が仕掛けてくるというのなら放っておくわけにはいかない。
 刺客も送られてきましたし」

あれが鈍堕華の手先だという証拠はないのだけど。

187 : ◆K.tai/y5Gg :2008/09/07(日) 01:08:09 ID:???
どんだけ派の勢力が不明だな
この頃の華鼬ってまだそんなにはデカくないのかな

188 :まりあ ◆BvRWOC2f5A :2008/09/07(日) 01:09:42 ID:???
「あなたは先程きらたまのことを高く評価しているようでしたが……まぁそれが本気かどうか
 今は置いておきましょう。ただ同盟を結んだばかりでスムーズに連携が取れるとは言い難い。
 そちら側は彼女ではまともに指揮出来ないでしょう。そうなると抗争になった場合、
 我々華鼬が主導権を握ることになる。当然鈍堕華も本家の当主より僕やノワを狙うでしょうね。
 もし同盟を結んでいなければ鈍堕華派と抗争になった場合、
 仮に鈍堕華派を潰しても本家も大ダメージを受けることになる。
 そうなったら華鼬が漁夫の利を狙ってくるかもしれない。
 そんなボロボロの状態で華鼬に勝てるわけがないことは火を見るより明らかだ。
 だからあなたは鈍堕華がクーデターを起こす前に同盟を結んでしまう必要があった。
 その為きらたまに跡目を譲らざるを得なかったんです。
 もしあなたが引退していなければ華鼬は座玖屋ファミリーと同盟を結びはしなかったでしょうね。
 はっきり言いますがあなたが相手では少々やりにくい。
 きらたまが頭ならこちらがそっちを乗っ取るのことも容易いと思いましたから。
 そしてこっちがそう考えることもあなたの読み通りだったはず」

ノワはその辺わかってるんだかわかってないんだか微妙なところだが、
あいつもあれでアホに見えてアホだけどそこまでアホじゃない。アホだが。

189 :ニコフ ◆nikov2e/PM :2008/09/07(日) 01:09:44 ID:???
わりと力関係とか忘れてしまった

190 : ◆K.tai/y5Gg :2008/09/07(日) 01:09:52 ID:???
>>155
ユートはファウル。笑った


話進んでねええええええええええええええええ

191 :まりあ ◆BvRWOC2f5A :2008/09/07(日) 01:11:46 ID:???
「同盟を結ぶというのはあなたにとって苦肉の策でしかなかったんでしょう。
 そもそもそんな必要はなかったのだから。
 華鼬を立ち上げてから数年になりますが、今までお互いこの街でやってきて
 仕事がバッティングすることもなかったし、特に対立関係にあったわけでもない。
 お互い勝手にやっていればよかったんだ。しかし鈍堕華という反乱分子が大きくなりつつ
 あった為にあなたは同盟を結ばざるを得なかった。
 しかしいきなり話を持ちかけても華鼬が乗って来るとは思えない。
 何の脈絡もなくそんな提案をすればこちらに怪しまれ、痛む腹を探られ弱みを見せるだけだ。
 そこであなたは先月のなんとかいう男が殺された事件をでっちあげた」

名前は確か……なんだっけ?
と、記憶をたどるが思い出せない。
するとそれまで黙っていた座玖屋がようやく口を開いた。

「……ユーモリのことですかな」

そうそう、そいつだ。
どうでもいいけど変な名前だな。

192 :ニコフ ◆nikov2e/PM :2008/09/07(日) 01:11:49 ID:???
殺人事件とどうからむのかとか

193 : ◆K.tai/y5Gg :2008/09/07(日) 01:14:11 ID:???
はい最も影の薄い犠牲者ユーモリ出ました

194 :ニコフ ◆nikov2e/PM :2008/09/07(日) 01:15:03 ID:???
忘れてた

195 :まりあ ◆BvRWOC2f5A :2008/09/07(日) 01:15:39 ID:???
「そのユーモリという男を殺した犯人は捕まっていない。
 犯人はおそらく座玖屋ファミリーの人間が犯人でしょう。もちろんあなたの差し金で。
 ユーモリが死んだせいで仕事がやりにくくなった、という大義名分を作りあなたは
 華鼬に同盟を持ちかけるきっかけを演出したんだ。
 ……ついでに言うとそのユーモリも邪魔な存在だったんじゃないですか?
 もしかすると鈍堕華派だったのかもしれませんね。
 ファミリーの幹部でもあり、それに魚鎮組とかいう組の幹部でもあったとか。
 そんな奴放っておいたらいつか面倒なことが起きるかもしれない。
 だったらいっそのこと始末してしまえば一挙両得だ。
 まぁその辺の事情はどうでもいいことですが。
 同盟を持ちかけるにあたってあなたが懸念した要素は幾つかあったでしょうが、
 最も不安だったのが他ならぬ自分という存在だ。
 さっき言ったようにあなたが頭のままなら同盟はあり得なかった。
 それに自分が代表のまま同盟を結んでしまった場合、反発した鈍堕華に狙われる可能性があるし
 華鼬が乗っ取りにかかってきた場合やはり自分が狙われる。
 きらたまなら扱いやすいし、その気になればいつでも当主の座から降ろすことが出来る。
 撒き餌としても隠れ蓑としても最適な人選ですね。
 娘だから、という理由で跡目を譲るのは至極尤もな理由でしょう。
 ですがどう考えても彼女はその器ではない。あなたが口で何と言おうが
 僕から見ればあの子はただの女の子だ。組織のトップに立てる器じゃない。
 No.2である鈍堕華を選ばなかった理由は愛人の子だから、というだけじゃ無理がある。
 組織としての運営を考えるならやはり彼を選ぶべきでしょう。
 それをしないというならそれなりの理由がある……ということです」

長々と語ったが証拠もなく仮説でしかない。
だが、座玖屋が表情が徐々に強張らせ始めていることが僕にとって何よりの証拠だった。

196 :ニコフ ◆nikov2e/PM :2008/09/07(日) 01:17:27 ID:???
図星ッ!

197 : ◆K.tai/y5Gg :2008/09/07(日) 01:19:42 ID:???
珍しく長く喋るな
きらたま脇役になっちゃうなこのままだと

198 :まりあ ◆BvRWOC2f5A :2008/09/07(日) 01:21:27 ID:???

「……実に想像力が豊かですな、九州さんは。
 ですが九州さんが仰ったことは全て想像の範囲を超えていません。
 私が身を引いた理由やきらたまに跡目を譲った理由、
 鈍堕華に譲らなかった理由も華鼬と同盟を結ぼうと思った理由、全て最初にお話しした通りです」

散々考えてそれか。
小便のような言い訳だな。
まぁそれぐらいしか言えんだろうとは思っていたが。

「ですがおかしいですな」
「なにがです」
「九州さんは“腹を割って”と仰いましたが、これじゃただ一方的に九州さんが深読みしているだけで
 打ち明け話にも何もなっていませんな」

座玖屋はいやらしく笑うが、その笑みは硬い。
僕の言っていることを全て認めた上で、その先を話せと言いたいのだろう。

「今あなたにとって最も恐ろしいのは華鼬との同盟が破棄されることでしょう」

僕のこの一言で座玖屋の作り笑いは瞬時に消え去った。

199 : ◆K.tai/y5Gg :2008/09/07(日) 01:22:16 ID:???
逆転の一手やな
口でやる将棋みたいになってる。こういうのは凄く好き

200 :ニコフ ◆nikov2e/PM :2008/09/07(日) 01:22:58 ID:???
7七歩は初期配置だったんですよ

201 :まりあ ◆BvRWOC2f5A :2008/09/07(日) 01:24:23 ID:???
「今更そんなことを……」
「それであなたが怒ろうと知ったこっちゃない。
 法的な効力があるわけでもないし」
「この世界で、こういう決まり事というのは口約束でも成立するというのもご存じないのかね」
「知るかよそんなもん」
「なんだと……」
「文句があるのならいつでも仕掛けてくればいい。
 それでひとまず鈍堕華派との抗争は回避出来るだろう。
 親子仲良く手を取って向かってくるがいい。
 ただその後、今度は親子同士で優勝者決定戦だ。
 そうなったら最後に勝ち残るのは誰かな?
 その頃には鈍堕華も今より力をつけているかもしれないし、
 華鼬との抗争で何故か鈍堕華派だけがほぼ無傷ということもあり得るがな」
「貴様……」

座玖屋は顔を醜く歪めて立ち上がり、じりじりと後ずさる。

「ふっはははは。ようやく化けの皮が剥がれてきたなクソ狸が。
 どちらにせよもう高見の見物を気取っていられる状況じゃないことに気付いたか?」
「同盟を破棄すればただじゃ済まないのはお前にとっても同じことだ」
「そんなものは百も承知だ。だから何だ? 僕もお前もどうせ死んだら糞袋だ。
 何も恐れることなどない。お前のように理で人の生き死にを仕切ろうとする輩に
 踊らされるぐらいなら肥溜めに落ちて窒息死する方が七億倍マシだ」
「正気か……」

202 :ニコフ ◆nikov2e/PM :2008/09/07(日) 01:26:16 ID:???
糞袋って表現

203 : ◆K.tai/y5Gg :2008/09/07(日) 01:26:55 ID:???
煙が土か糞袋

204 :ニコフ ◆nikov2e/PM :2008/09/07(日) 01:28:25 ID:???
友成純一を思い出した。読んだことないけど。
どす黒い!

205 : ◆K.tai/y5Gg :2008/09/07(日) 01:28:40 ID:???
>華鼬との抗争で何故か鈍堕華派だけがほぼ無傷ということもあり得るがな

ここすごい

206 :まりあ ◆BvRWOC2f5A :2008/09/07(日) 01:29:22 ID:???
顔色を失った座玖屋は床の間に飾られていた日本刀を手に取り、
無言で鞘から刀を抜いて剣先を僕に向ける。
鈍く光る剣先が眼前に突きつけられた瞬間、僕の中の何かが弾けた。

「ほら、怒れ怒れ! そうやって本性むき出しにしている方が
 よっぽどその間抜け面に似合ってるぞ小悪党が!」

感情のぶつけ合いの行き着く先に待っているのは生と死の境目だ。
僕は自分で自分の言葉に酔い、座玖屋は真剣を握る自分に酔う。
原始的エキサイトだ。これがリアルだ。お為ごかしは明後日の方向に蹴り飛ばしてしまえ。 
自分を含め命の存続に関わる瞬間と向き合うことで生きている実感を得られるということを
僕は誰よりも知っているつもりだった。生きてるって素晴らしい。失禁しそう。

「何が望みだ……」
「お前の望みは何だ」

僕は質問に質問で返す。
座玖屋は歯がゆそうに顔を引きつらせるが、今この場の主導権を握っているのは僕だ。

207 :ニコフ ◆nikov2e/PM :2008/09/07(日) 01:29:48 ID:???
テンションすげえやべえ

208 : ◆K.tai/y5Gg :2008/09/07(日) 01:30:59 ID:???
チ マ チ マ と 盛 り 上 が っ て ま い り ま し た

209 :ニコフ ◆nikov2e/PM :2008/09/07(日) 01:31:07 ID:???
これ書きながら失禁あるいは何らかの汁を垂らしたに違いない

210 :まりあ ◆BvRWOC2f5A :2008/09/07(日) 01:32:05 ID:???
「それを聞いてどうする気だ……」
「どうするも何も、最初から言ってるだろうが」
「なに……?」
「腹を割れ、と言ってるんだ。今更体裁気にしても意味がないだろう」
「ちっ……」

これ以上の駆け引きは時間の無駄でしかない。
どうせ今僕に向けている刀もハッタリなのだ。ある意味では残念なことに。
感情に任せてこの場で僕を殺すような奴なら話にならないが、
座玖屋は絶対にそんなことはしない。

僕がそう考えていることが伝わったのか、座玖屋は忌々しそうに舌打ちをして刀を鞘に収めた。

「少し勘違いしているようだが、大体はお前の言った通りだ……」
「認めるんだな」

お互いに素は見せ合うこの瞬間を待っていた。
もはや建前は無用。損か得かを好きに判断して選択するのはこのオッサンの勝手だが、
そんなことよりもまず、本音を聞きたかった。

211 : ◆K.tai/y5Gg :2008/09/07(日) 01:33:39 ID:???
この人しょっちゅう失禁しとるやないですか

212 :ニコフ ◆nikov2e/PM :2008/09/07(日) 01:34:20 ID:???
そうなのか!

213 :まりあ ◆BvRWOC2f5A :2008/09/07(日) 01:35:09 ID:???
「何をだ」
「きらたまと鈍堕華の二人……息子と娘、家族を、道具としか見ていないと認めるんだな」
「……好きにとればいい」
「つまりお前はあの二人を愛してはいないんだな?」
「馬鹿馬鹿しい。そんなものが何か役に立つのか」
「ふはっ……」
「なに?」

思わず笑いが込み上げ、堪え切れず吹き出してしまった。
ほら見ろ。やっぱり僕は正しかった。
家族愛などないと証明されたのだ。

あとは今座玖屋が言ったことをきらたまに聞かせてやればいいのだ。
あの娘はどんな顔をするだろう。
ショックで泣きだすのだろうか。
それとも発狂して暴れ出すのだろうか。

そんなきらたまの姿を想像してみたが、どういうわけか少しもワクワクしてこなかった。

214 : ◆K.tai/y5Gg :2008/09/07(日) 01:36:18 ID:???
出たよ。デレの無いツンデレ

215 :ニコフ ◆nikov2e/PM :2008/09/07(日) 01:36:52 ID:???
刺激になる

216 :まりあ ◆BvRWOC2f5A :2008/09/07(日) 01:37:07 ID:???
あれ?
なんでだ。
それが目的だったはずだろう……。
座玖屋は僕の期待に応えてくれたのだ。
思っていた通り、娘に対しての愛情なんてこれっぽっちも持ち合わせていない
クズ野郎だったとはっきりしたじゃないか。

それなのにどうして体が重い。

なんだかとても不思議な気分だ。
さっきまで上がりっぱなしだったテンションは一気に降下している。
それどころかものすごい脱力感に襲われ始めた。

急に足に力が入らなくなって僕はその場にへたりこんでしまう。

「……おい」

座玖屋が何か言っているが聞こえない。
胸の奥にわだかまっていた何かをスプーンでさっくりと削り取られたような気がした。
ある意味すっきりしたのだが、代わりにひどく歪な物をすっぽりと空いたそこにねじ込まれたような。

217 : ◆K.tai/y5Gg :2008/09/07(日) 01:40:34 ID:???
え、どうした

218 :ニコフ ◆nikov2e/PM :2008/09/07(日) 01:41:26 ID:???
ハナデレ

219 :まりあ ◆BvRWOC2f5A :2008/09/07(日) 01:42:05 ID:???
「おい」
「あ……?」
「それで……どうしろと言うんだ」
「あぁ……」





──生きることを希望とするのなら。




やはり死ぬことは絶望なのだろうか。
何故かそんなことを考えた。

「お前の望み通り腹を割って話してやる。
 俺は鈍堕華を潰したい。それには悔しいがお前ら華鼬の力がなきゃどうにもならん。
 今同盟を破棄されたらお手上げよ……何でもって訳にはいかねぇが、
 条件次第じゃ飲んでやる。言ってみろ」

希望があるから絶望するのだ。
ならその逆は……そう思っていた僕こそが泥沼にはまっていたのだった。

220 :外伝書き ◆X2rQHL2B4w :2008/09/07(日) 01:42:07 ID:???
怒涛のレズ展開

221 :外伝書き ◆X2rQHL2B4w :2008/09/07(日) 01:43:03 ID:???
座玖屋ほったらかしすぎカワイソス

222 : ◆K.tai/y5Gg :2008/09/07(日) 01:44:21 ID:???
この人どこまで百合好きなんだろう

223 :ニコフ ◆nikov2e/PM :2008/09/07(日) 01:44:30 ID:???
むぅ

224 :まりあ ◆BvRWOC2f5A :2008/09/07(日) 01:45:09 ID:???
「そうだな、じゃあ……」

あの娘は絶望の中に希望を見出すことは出来るのか?
あの時の僕のように。

そしてやっぱり、きらたまは僕と同じ答えを出すのだろうか。
それとも、僕とは違った答えを出せるのだろうか。

「きらたまを殺してくれ」

こうして僕はまた何かを期待して、どうせまた裏切られるのだろう。
そんなことは骨身に沁みるほど知っていたけれど。






225 :外伝書き ◆X2rQHL2B4w :2008/09/07(日) 01:45:47 ID:???
ヤンデレキタ━━━━━━(゚(゚∀(゚∀゚(゚∀゚)゚∀゚)∀゚)゚)━━━━━━!!!!!!

226 :ニコフ ◆nikov2e/PM :2008/09/07(日) 01:46:44 ID:???
うあぁ

227 :ニコフ ◆nikov2e/PM :2008/09/07(日) 01:47:38 ID:???
燃え上がった後泣きそうになりました
悪夢がみれそうです!

228 : ◆K.tai/y5Gg :2008/09/07(日) 01:48:39 ID:???
次回の展開が読めすぎた

229 :外伝書き ◆X2rQHL2B4w :2008/09/08(月) 22:18:10 ID:???
【9】根付

僕の土日はアルティメットの兄貴のよくわからない仕事の手伝いに終わった。
せっかく休めると思ったのに、炎天下の中あっちへ行けこっちへ行けのおつかい三昧。
日曜の朝に帰宅するなり即効でぶっ倒れてガーガー寝た。
でもあまりの暑さに昼には起きるはめになる。
どんだけ体力つけようが暑さにはかなわない。
本当に夏は嫌いだ。
いい思い出がない。


日曜の昼から夜にかけては特に予定もなく、アルティメットの兄貴からの呼び出しもなくのんびりと過ごせた。
のんびりと過ごしつつも例の仕事をどうしようかと悩んでしまっているのに気付いて凹むのを度々繰り返していた。
ソーメンと風鈴と扇風機と共にグダグダと日中を乗り切るのは案外に難しい。
またシニアの家に行ってクーラーで涼もうかとも思ったがなんとなくやめておいた。
人様に迷惑をかけるのは僕の仕事だが、休みの日くらい人様に迷惑をかけずに一日過ごすのが粋ってものだ。

結局何もせずジッと耐えて夜を待ちいつも通りの生活をして寝るのだった。


230 :外伝書き ◆X2rQHL2B4w :2008/09/08(月) 22:18:59 ID:???


月曜日朝早く起きた僕はあまり目立たない黒のスーツに白のシャツで家を出る。
ヤクザだからといって金や紫のスーツなんてものは僕はもってない。
そういう見た目の威嚇は兄貴の仕事だから不要なのだ。
なので僕は成人式にも使えるフレッシュスーツだ。

社会人を気取って関東隔離組のオフィスへと向かった。
少し曇り気味の空で助かる。
本日も晴天ナリとなればこんなスーツを着ていれば瞬く間に通り雨だ。
それでもじんわりと滲み出る汗が鬱陶しかった。

午前8時にビルの入り口の前に到着。張り込みを開始する。
例の大雑把男の登場待ちである。

男は名前は堂珍平緒、タイヤキが相当好きらしい。
なのでわざわざタイヤキの根付を昨日地味に作っておいた。
こんなもので喜ぶのかはわからないが、もしかしたら使う機会があるかもしれない。
そっとポケットに忍ばせておく。
本当は根津のタイヤキでも買ってこようと思ったのだが朝早くから空いてるような店じゃない。
今回はこれで我慢。
今度個人的に買いに行こう。おなかがすいてきた。

もうタバコが1箱消失しかけの頃、時間は午前11時。
ついに堂珍が現れた。

どうやらすでにオフィスの中にいたようだ。
昼飯でも買いに出てきたのだろう。
飯を食うまでは人間苛立ちやすい、今はやめておこう。

231 :外伝書き ◆X2rQHL2B4w :2008/09/08(月) 22:19:52 ID:???
そっと堂珍をつけるとやはり近くの中華料理屋に入っていった。

「あとだいたい30分くらいはかかるだろうな」

僕も少し腹を満たしておこうと近所のコンビニに入り、やきそばパンと水を購入。
中華料理屋の見える位置でやきそばパンをフモフモとがっついた。



40分以上たって堂珍はやっと出てきた。
部下も何もいない。
もしかしたら組内で浮いてしまっているとか哀しい悩みがあるのかもしれない。
オフィスの近くまできて僕は堂珍に突撃した。

「あの、ちょっとよろしいですか?こちらのオフィスの方ですよね?」
「ああん?!」

僕がオフィスを手でさしながら聞くと、条件反射のように威勢良く怒鳴りかえしてきた。
ちょっと声をかけただけなのにとんでもないボリュームの返事がきてビックリして少し固まってしまった。

「え、えっとですね…私こういうものでして」

そっと自作の名刺を差し出す。
堂珍はめんどくさそうにだが一応受け取ってくれた。

「IT系の小さな会社なのですが、よろしければ業務効率化のためのシステムを提案させていただ…」
「んだよ!てめえうちが普通じゃねえことはわかってんだろうな?あ?」
「ええ、ええ、わかっています。わかっていますとも。私どもそっち方面専門の者でして…」
「何?同業者なの?っつうか何で俺に言うんだよ!直接事務所いけよ」
「ええ、はい、それはごもっとも。ごもっともです。しかしですね、えっと…堂珍様ですよね?」
「お?なんで俺の名前知ってんだよ」

232 :外伝書き ◆X2rQHL2B4w :2008/09/08(月) 22:20:41 ID:???
堂珍の表情が少し険しくなる。

「知人から聞きまして。心の広い大きな人だと、ですので、こう、話しかけやすいかな、と思いまして。
 こういう世界に生きてはいますが、やはりその、やっぱり怖い部分がありまして、
 堂珍様はよくできた人だからお話聞いていただけるかという、その」

堂珍は無言で僕の肩を掴んできた。
これは殴られるかもしれない、と少し顎に力を入れたところで堂珍は突然明るい表情になる。

「よくわかってるじゃねえか!そうだよ、俺は人がよくできてるんだよな!」

ヘヘヘとうすら笑いを返しておいた。

「とりあえず事務所いって話そうや」

堂珍について僕はオフィスへと歩き出す。
ほんの数メートルと階段一つの間に、
ダレにきいたとか他には何言ってたとか聞いてきたが適当におだてて答えつつ事務所にたどりついた。
堂珍は懐からカードを出して入り口にある読み取り機にカードを差し込んだ。
ピッという音がして鍵が開く音がする。
堂珍はカードを抜き取りまた懐にしまい、ドアをあけて事務所に入っていく。

「そこの部屋でちょっと待っとけ」

僕は応接室的な空間(机と椅子4人分がついたてで囲まれただけのところ)で落ち着いて待つ。
さっきチラリと見た事務所内はカメラ画像からおこしたマップ通り、人は10人ほどいた。
ガタイのいいのも何人か見えたので、これは強行は無理だと思った。

ついたてのせいで事務所内もよく見れないし、
ただボーっとしているしかないなぁ、タバコ吸いたいなぁ、とか考えていたら堂珍がやってきた。

233 :外伝書き ◆X2rQHL2B4w :2008/09/08(月) 22:21:44 ID:???
「そんでさっきのさ、システムが何とかって話よ、俺にうまみあんのか?」
「もちろん」

システムの発注のこと、そこで誤魔化して堂珍の懐に結構流しこんでしまう計画をお話する。
具体的にどういうシステムなのかは説明してもきいてくれなそうだから話さなかった。

「高すぎねえか?」
「大丈夫です、これでも相場よりは相当安いんですよ」
「そうなの?んじゃまあ俺はそれにオーケーだしたりできねーからよ。あー、ちょっと待ってろ」

そういうと堂珍は席を立ちどこかへ行ってしまった。
数分後、事務所においてのボス「山岸徹」を連れて戻ってきた。

「ちょっともっかい説明して」

僕は再びシステムについて、今度は内容についてから説明をはじめる。
「業務文書をデジタル化して本部と共有しましょう。
いつでも簡単に閲覧できるし、セキュリティも最新鋭のしっかりしたものを確保します。
利用者のIDによって文書の閲覧可・不可を設定できるので、うっかり見ちゃう見られちゃうなんてこともなくなりますよ。
人の手だとやっぱりそういうところミスが起きますから、それをITシステムで間違いのないようにしますよ」
というようなことをそれらしく話していく。

234 :外伝書き ◆X2rQHL2B4w :2008/09/08(月) 22:22:34 ID:???
「設備込みで400万になりますが」
「微妙だな、安いっちゃ安いが、前にそういうの入れようと思ったんだが結構な額いっちまうからやめたんだが…」
「他の事務所でもパソコンにソフトいれるだけで利用可能なようにします。
 グループ全体で使えるので、1拠点50ずつ出してお買い上げいただいたところもございますし…」
「ううむ、200にならんか?」
「サポート無しであれば、もちろん簡単な教育はするので自己管理は可能ですが」
「ほんじゃそれでよろしく頼むわ。あ、でも外には見せられん情報とかもあるんだが」
「手順は簡単ですから、パソコンに慣れた人がいればその人にお願いしていただければ大丈夫です。」
「そうか、んじゃまあ細かい話は堂珍にまかせるからよろしくな」

そう言ってボスはさっさと去っていった。
随分と簡単に話がまとまってしまった。

「おう、決まってよかったな」

ニヤニヤした顔で堂珍がこっちを見ている。
地味にむかつく顔だ。
堂珍と細かい話、用意してあった書類で契約的なことの話を進めてその日は帰る。
所詮はヤクザ、いい加減に作った文書でもとくに問題なく話はまとまってしまった。





235 :外伝書き ◆X2rQHL2B4w :2008/09/08(月) 22:23:37 ID:???
仕事はほぼ終わったようなものだ。
顧客名簿をパソコンの中にさえ入れてしまえば後はどうとでもなる。
しかも今回そのパソコンに細工もできるおいしい位置なわけで、こんなに楽なことはない。
電柱なんて登らず最初からこうすればよかったのだ。
盗んだ方が手っ取り早いなというめんどくさがりな性格が災いした。
急がば回れは名言である。

帰り際にコンピュータに詳しい男に電話をかけた。
簡単なシステムだが実際作ろうと思うと一人ではしんどい。
男のつてでさらに2人用意してくれるらしい。
納期は1ヶ月後にしたが吊がそんなにのんびり待ってくれるのか謎だし、
シニアもいつまで無事でいられるかわからないので早く終わらせたかった。

「200万か…サーバー買ってバイト代払ったら俺の取り分ほとんど無いな…」

むしろ赤字かもしれない。
サービス精神旺盛にもほどがある。
しかし破格でなければ奴らは買わない。
これで儲けられたらいいんだが、普通にIT会社やるほどの気力も体力もないしな
などと考えていたらいつのまにか雲が晴れて真っ白な太陽が僕を焼き付けてきていた。
憎らしい晴天に眉をひそめ、僕はコンビニへと逃げ込むのだった。


236 :外伝書き ◆X2rQHL2B4w :2008/09/08(月) 22:24:28 ID:???
以上です。次回「心配」

237 : ◆K.tai/y5Gg :2008/09/09(火) 00:59:59 ID:???
探偵役っぽくなってきたーー
思いのほかハマるな

238 :外伝書き ◆X2rQHL2B4w :2008/09/09(火) 01:11:45 ID:???
鏡の前で全裸になってひたすら屈伸していたらひどく自分が醜い生き物に見えてきた

239 :外伝書き ◆X2rQHL2B4w :2008/09/09(火) 01:12:33 ID:???
すみません。誤爆しました。

240 : ◆K.tai/y5Gg :2008/09/09(火) 01:27:24 ID:???
もう少しまともなレスで誤爆してください

241 :外伝書き ◆X2rQHL2B4w :2008/09/09(火) 23:05:28 ID:???
【10】心配

コンピュータに詳しい男は木塚一輝(きづか かずき)と言う。
現在大学生3年生、年上だ。
昔小遣い稼ぎのために使ってた中学生の兄貴でやたらパソコンを使う男がいたので個人的にコネを持っておいた。
見た目はメガネの似合う爽やかなオタクで、無駄にサラサラな髪の毛が癇に障る。
どこにでもいそうな大学生なのだがプロ顔向けのプログラマーで、
僕はこの男にご教授頂き今では小賢しいウィルスも立派に作れるようになった。感謝感謝。

僕は木塚と彼の友人2人に開発を依頼した。
彼の話ではその友人もまた腕の立つプログラマーらしい。
僕は彼の家を訪ね、灰色の機械に囲まれながら
「どういうシステムでこういうの作ってくれ」
というような打ち合わせを1日かけてして、
それで開発進行は彼にほとんどをおまかせした。

僕は僕でヤクザな仕事もあるし、あまりにその本業をほったらかしにしているとアルティメットの兄貴に怪しまれる。
そうするとそれはもうとてもとても面倒なので僕はあまり手伝えないのだ。
なので僕はそのシステムに仕込むウィルスを作るだけにすることにした。

「だいたい1週間、せめて10日でできるかな」

とお願いしてみたら

「まぁ、何とかしてみますよ。そのかわり180万…よろしくお願いしますよ?」

と言われた。
僕の欲しい金をこいつは1週間で稼ごうとしている。
なんとも腹の立つ話だ。
しかしゼロから僕がこの金を作り出そうとすればそれはそれで難しい話なので仕方ない。
それにこれは一人分の金じゃないし…。

242 :外伝書き ◆X2rQHL2B4w :2008/09/09(火) 23:06:19 ID:???
「1週間なら180万、ただしお仲間2人とあわせて3人で180万だぞ。
 もし1週間をこえたら…150万にしようかね。
 さらに10日を超えたらそこからは1日オーバーすることに5万ずつ減らす。オーケー?」
「いいですよ、そんなにかからない。」

メガネをクイクイさせながら自信満々に言われてしまった。
個人的には8日とか微妙な感じに仕上がって安く仕上げたいが、この様子だと1週間で作り上げてきそうだ。
サーバーやら何やら買ったら200万を超えてしまうだろうが、
もしそうなってもその赤字部分は必要経費として吊に請求できるだろうと算段している。
理想は150万+設備40万くらいで僕のお小遣いとして10万。
しかしこういった皮算用は大抵うまくいかないものである。

「それじゃマシンとかもそっちにまかせるから。
 絶対に…ってのは無理だろうけど、できるだけ不具合の無いものにしておいてくれよ。
 これもし問題でたら命かかってくるから!死ぬから!俺!」
「大丈夫ですよ。テストは手厚く行いますので。」
「俺の命預けたよ」

今はこの男に頼るしかないので僕は致し方なくこの男を信用するほかなかった。
完璧主義的空気がメガネから溢れているし、出来上がったら一通り目を通すつもりなので一応大丈夫だろうとは思っているが。
僕は木塚の肩をポンポンと叩いて何か言おうとしたが何も言えず、結局意味のわからないままその場を去った。




243 :外伝書き ◆X2rQHL2B4w :2008/09/09(火) 23:07:09 ID:???


”初めて”はいつも不安だ。
僕は事務所の近所にある例の喫茶店でタバコをググッと吸い込む。
喉にチリッと熱さを感じて顔をしかめた。
だいたいやることはやって後は待つだけだ。
僕は僕の日常をこなし、時が来たらするべきことをしてそして吊から金を受け取る。
肩の荷はおりないが足場は勝手に動いてくれるので、僕はじっと肩こりを心配するだけなのだ。

心配が嫌いだ。
頭の中にひっかかりを覚えながら布団に入るのは寝心地が悪い。

タバコの先端がゆっくりと紙を灰に変えていくのを呆っと眺めていた。
ゆらぐ煙がどうして顔の方にまとわりついてきて、
髪に臭いがつくのが嫌で首から上だけ動かして避けた。
それでも追ってくる煙を息で散らす。
いつのまにか長くなった灰の棒にハッと気付いて急いで落とした。

「そろそろ行かないとな」

金を返さないのはシニアだけじゃない。
闇金の取立てのお仕事はまだいくつかある。
さっさと片付けないと兄貴から痛いおしおきをうける。
僕は避けるのは大の得意だがくらうのは苦手だ。
あまり頑丈な方ではないのに兄貴のおしおきは避けることが許されないのでとても辛い。
でも僕はこれでしか食っていけないし、
結構自由にいられるこの稼業は僕にあっていると思っているので仕方なくやることはやるのである。

机に500円を置いて喫茶店を出た。
お気に入りの所で不快な目線を向けられてはたまらないので、ヤクザだからといって無銭飲食はしない。

244 :まりあ ◆BvRWOC2f5A :2008/09/09(火) 23:08:24 ID:???
まさかの木塚

245 :外伝書き ◆X2rQHL2B4w :2008/09/09(火) 23:08:26 ID:???
お金を返さない不届き者のアパートへとのんびりと向かう。
兄貴がシニアのついでに渡してきたリストには

『佐山雅哉(さやま まさや) - 月10。フリーター。仕事長続きしない。そろそろ豚箱で長期労働おめでとう。』

と書かれている。
精神に病でも患っているのだろうか。
それともよっぽど仕事ができないクズなんだろうか。
そんな奴が月10万払っていたら生活できない。
今までどうやってきたんだろう。
多重債務だろうか?
ホゲホゲと頭を巡らせていたらアパートについた。
ボロボロの木造2階建てアパート。
ここの1階の角部屋だ。
ドアを強めに叩くと木が凹んだ。

「は、はい〜」

よかった、在宅のようだ。
ドアが開き中からひょろい25くらいの男が出てきた。

「大洋銀行の者ですけど。お金、最近払ってないでしょ?」
「あ、あぁぁ、すみません…」

佐山は肩を落としてモジモジしている。
気持ち悪い男だ。

「あがってもいい?」
「あ、どうぞ」


246 :外伝書き ◆X2rQHL2B4w :2008/09/09(火) 23:09:26 ID:???
愛想笑いもろくにできないようで、言葉でだけ「ハハハ」と乾いた答えをして僕を部屋に招きいれた。
物が少なく殺風景な部屋に煎餅布団がひろがったままある。
布団の横には薄っぺらい本が数冊転がっていた。

「すみません、座布団とかなくて…」
「いいよいいよ。」

シニアの部屋に比べればかなりマシだった。
座るところがあるのが素晴らしい。

「それで、払うあては?」
「えぇ、三日前まではあったんですけど…バイトを首になってしまいまして…」
「なんで?なんかよくバイトかわるらしいけど何で?体力ないの?」

佐山の腕を見た。
細身の女の子のような腕だ。
白くて軽く手刀をいれれば折れてしまいそうな。

「いえ、体力は結構あるんですよ、これでも。
 いや、なんていうんですかね…おっちょこちょいというかドジというか…
 そのぉ、よく物を壊してしまって、それでクビになってしまうので」
「ああ、なるほどね。」

たまにどんなに注意をしてもすぐ物を壊してしまう奴がいる。
佐山もそういった人種なのか。


247 :外伝書き ◆X2rQHL2B4w :2008/09/09(火) 23:10:27 ID:???
「壊す物のないようなバイトを紹介するしかないかな、弁当工場とか。
 ベルトコンベアから流れてくる弁当箱に惣菜をつめこむだけ!みたいなやつ
 それなら壊すっつっても弁当箱くらいだし…」
「あ、それです!それ!三日前までやっていたバイトがそれです。」
「は?え?何、えっと。弁当箱吹き飛ばしすぎたとか?」
「いえ、ベルトコンベアをひっくりかえしてしまいまして」
「はぁあああ??」

ベルトコンベア機はそう簡単にひっくり返せるものではない。
小さいものでも機械とトン単位の重さがあるだろうし、
ベルト部もしっかり機械部とくっついていてそこだけ剥がすというのも難しいはずだ。

「あのですね。私たまにとんでもない力が出てしまうんですよ…火事場の馬鹿力というか、
 どういったタイミングで出るかはよくわからないんですけどね…。」

馬鹿力だろうがそれの元になる筋肉がないじゃないかこの男には。

「あ、みなさん驚かれますよ。僕も驚きます」
「お前は驚くなよ」

248 :外伝書き ◆X2rQHL2B4w :2008/09/09(火) 23:11:22 ID:???
頭を抱えた。
改めて、この世には異常な人間が多い。
思考回路がおかしかったり物理現象がおかしかったり。
不思議がいっぱいで面白いが、それが直接自分の面倒となるのは非常に嫌だ。おいとましたい。
最近考え事が多かったせいもあって僕はもう考えるのは嫌になっていた。

「うん」

しばらく努力した後、僕は佐山の両肩を掴んでニッコリ微笑んだ。

「いいバイト紹介してあげるよ。物壊しても大丈夫!」

僕は佐山をさっさと豚箱につっこむことにした。
新しいところでもきっと何かやらかしてくれるだろうが売ってしまえば後はこちらの知ったことではないし、
そのあたりはタコ部屋管理人がうまいこと教育してくれるだろう。

「君に幸あれ」

嬉しそうな顔をしている佐山に引越しの準備だけ言い渡しその日は家に帰った。
起きたら兄貴にいい投入先を教えてもらおう。
投げ仕事の爽快感に僕は笑顔で眠りについた。

249 :外伝書き ◆X2rQHL2B4w :2008/09/09(火) 23:12:17 ID:???
以上。次回、「納品」

※訂正
「豚箱」って書いてるところ「タコ部屋」です。何か間違えてました。

250 :休憩まりあ ◆BvRWOC2f5A :2008/09/09(火) 23:12:36 ID:???
死神のようなイノ

251 :ニコフ川д゚) ◆nikov2e/PM :2008/09/09(火) 23:35:24 ID:???
対応しました

252 :外伝書き ◆X2rQHL2B4w :2008/09/09(火) 23:37:05 ID:???
ありがとうございます

253 :まりあ ◆BvRWOC2f5A :2008/09/10(水) 00:02:02 ID:???
   6.暗い月曜日



ただでさえ休み明けでかったるい月曜日の朝。

いつもの通学路は予想通りどんよりとしていた。
俺を含め学校へ向かう三井銅鑼中の生徒達の足取りは重い。
だって今日学校に行ったって楽しいことなんてあるわけがない。
そりゃ自然と歩きも遅くもなるわ。

しかし習慣と中学生に課せられた義務というものが重い足を学校へと向かわせる。
難儀だね。

このままではいつまで経っても学校に着かないのではないかと思えるほど
中学生達は牛歩のようにゆっくりと歩いていたが、世界中の時間が遅くなったり
何かの影響で重力が界王星みたいになってしまってるわけじゃなく、
やっぱり俺らの歩く速度が遅いのだということは出勤途中らしい
スーツ姿のサラリーマンやOLなんかを見るとよくわかる。
革靴やヒールが地面を打つ音のリズムが16ビート過ぎるからだ。
彼らもまたどこか暗澹とした表情をしているが、それはたぶん日本のせい。
頑張ってください。

254 :まりあ ◆BvRWOC2f5A :2008/09/10(水) 00:09:56 ID:???


   ◆


家を出る時鞄を持って出ようかどうか迷ったが結局持って来なかった。
そしてそれは正解だった。

今日の授業は全部中止。
全校生徒体育館に集まって校長の話聞いてそんで終わりだそうだ。
教室で誰かがそんなことを言っていた。

はっきりいって休めばよかった。
今日休んだってきっと誰にも怒られなかっただろう。
実際俺が教室に着いた時、いつもなら半分以上のクラスメイトは既に来ていて
大体はその顔ぶれも同じなのだが今日はまだ何人かの姿が見えない。
っていうかたぶん来ない。毎日一番に登校してくるというミリオ(女子)もいない。

そしてチャイムが鳴り担任のケニシタ先生が教室に入ってきた時、
10人以上の席が空いていた。
きっと真上から教室を見下ろしたらクロスワードパズルみたいになってるんだろう。

今日来てないのは、ミリオ、ヤック、シイノ、リリオカ、ハタラ、ユンチ、メイマエ、
サユも来てない。ミサも……ミサは謹慎中か。あとポンコも。

そして俺の左にひとつ、後ろにみっつの彼女の席。

255 :ニコフ川д゚) ◆nikov2e/PM :2008/09/10(水) 00:10:49 ID:???
よいしょ!

256 :まりあ ◆BvRWOC2f5A :2008/09/10(水) 00:14:31 ID:???


   ◆


各クラス廊下に整列して、体育館へ向かう。
その時、クラスのみんなをまとめあげる奴がいないってことに気付く。
ケニシタ先生もまるで新米教師みたいにたどたどしい指示を出していた。
そう、クラスのみんなをまとめてたのはいつだってサチコさんだったのだ。

並んでる時、隣のD組の列の中にジニの頭を発見した。
反対のB組の列も見てみるが、サトチーはいないっぽかった。
ポンコが来てないからなんとなくそうだろうと思ってたけど。

「よし、えー……C組、行くぞ」

ケニシタ先生の頼りない号令と共に、無言で列が動き出す。
その時ふと隣から視線を感じたので見ると、座玖屋と目が合った。

昨日、駅前で座玖屋と会った時のことを思い出して目を逸らしそうになってしまう。
昨日話した時のあのゾッとするような表情、そして別れ際の一言……
まるで別人のようだと昨日は感じたが、今俺と目を合わせた座玖屋は昨日の彼女とは
やっぱり同一人物とは思えない、なんともいえない顔していた。
眉を寄せて、悲しんでいるような、どこか諦めているような、なんとなく表情の作り方に
困っているような、そんな顔。

257 :ニコフ川д゚) ◆nikov2e/PM :2008/09/10(水) 00:16:04 ID:???
ネーミングセンスがつくづくすげえよんぁ

258 :まりあ ◆BvRWOC2f5A :2008/09/10(水) 00:18:50 ID:???
でも、たぶん俺も同じような顔してたと思う。
俺はかける言葉が見つからず、わけもわからず頷いてしまう。
すると彼女も薄く口元を緩めて頷き返した。なんだろうね、これ。
……まぁいいか。よくわかんないけど。とりあえず昨日のことは忘れよう。
やっぱ彼女にとってもショックだったろうし、なんかアレだろう。
あるんだろう。あったんだ、きっと。


   ◆


校長の話は約1時間ほど続き、その間に何人かが体調の不良を訴えたらしく先生に連れ添われて体育館を出て行った。
入口の鉄扉が耳障りな音を立てる度に校長の話が一旦途切れ、体育館内に張り詰めた空気が流れる。
呼吸さえも禁じられてしまうようなその一瞬の静寂が息苦しくて堪らなかった。

出て行った奴はきっと、体育館を出た瞬間に幾分か元気になってるだろう。

残された俺達はまるで気配を押し殺して自分の存在をこの場から消し去ろうとしてるみたいだった。
奇妙な一体感、故に生まれる連帯責任。みたいな。

なんていうかザ・日本。
別にそれが悪いわけじゃねぇけど。

出て行った奴が勝ちなのか負けなのか、残った俺達にはわからない。
それは外に出た奴にしかわからないんだろう。
ただこの空気に呑まれてる自分がムカついて仕方なかった。
けどそれを跳ね飛ばす気力も勇気も俺には無かった。

259 :ニコフ川д゚) ◆nikov2e/PM :2008/09/10(水) 00:20:48 ID:???
暗い月曜だ……

260 :まりあ ◆BvRWOC2f5A :2008/09/10(水) 00:22:31 ID:???


   ◆


教室に戻るとケニシタ先生はおもむろに何かのプリントを配り始めた。
なんか心理テストくさい質問が20ほど並んでた。

うわーそれっぽい、嘘くせーと俺はちょっとうんざりしてしまったが、
隣の席のチャイコにシャーペン借りてちゃんと真剣に回答しておいた。


   ◆


プリントの回収が終わるとすぐに下校。

『明日は休校になるかもしれないし、ならないかもしれない。
 今日中に必ず連絡するので全員真っ直ぐに帰宅すること。
 明日休校にならなかったとしても、体調や気分が優れなかった場合は
 無理して登校せず学校に連絡を入れるように』

ケニシタ先生はそんなことを言っていたが、誰も返事はしなかった。

261 :ニコフ川д゚) ◆nikov2e/PM :2008/09/10(水) 00:25:22 ID:???
>明日は休校になるかもしれないし、ならないかもしれない。
うあああああやられた!

262 :まりあ ◆BvRWOC2f5A :2008/09/10(水) 00:26:59 ID:???


   ◆


「うす」

教室を出ると、廊下でジニが俺を待っていた。
若干くたびれたような顔のジニを見て何故か俺は安心してしまう。

「おう」

今日初めての会話はこれで終了。
俺とジニは並んで歩き出す。

次に俺達が言葉を交わしたのは下駄箱だった。

「つーか来なくてもよかったな」
「ん……まぁこうなる気がしてたけど。うちのクラス、途中で帰っちゃった奴もいるし」
「あぁ、いたな。あのまま家帰ったん?」
「みたい。教室戻った時いなかったし。誰も何も言わなかったけど。先生も」
「俺も途中で出りゃよかった」
「……かもな。俺も正直、ちょっとアレだった。なんだろうな」
「な。……てゆうかさっさと靴履けよお前」
「あぁ……いや、お前もな」

気付くと立ち話モードに入っていた俺達はツッコミ合いながら靴を履き替える。

263 :ニコフ川д゚) ◆nikov2e/PM :2008/09/10(水) 00:29:06 ID:???
ジニきたー

264 :まりあ ◆BvRWOC2f5A :2008/09/10(水) 00:31:58 ID:???
「明日……どうする?」
「どうするって、まだわかんねーだろ」
「あ、そっか」

なんか今日のジニ、ボケてる。
わかる気もするけど。

学校に来てまだ2時間ほどしか経ってないのに、俺はやたらと疲れていた。
たぶんジニも、つーかきっとみんな。

靴を履き替えて外に出ると、校門の所でマスコミ関係者らしき集団がカメラやマイクを手に
下校しようとする生徒達を取り囲んでるのが見えた。

「うわ、ウゼッ……まだいるし」
「朝もいたな。でも朝より増えてる……」

朝は登校前だったのであまり執拗に声をかけてきたりしなかったが、
下校の時ならいいだろうってか。なんて嬉しくない心遣いだろう。

「どうする?」
「どうするって……嫌だなぁ。裏から出る?」
「裏もいるだろぉ。つーか先生らも何とかしろよ。あれが一番傷つくだろ。
 わけわかんねーアンケート取ってる場合か」
「はは……」

などと俺達がまごついている間にも、後から出てきた奴らが校門前で次々と餌食にされていく。

265 :ニコフ川д゚) ◆nikov2e/PM :2008/09/10(水) 00:34:08 ID:???
オトナのやることかよおおお!

266 :まりあ ◆BvRWOC2f5A :2008/09/10(水) 00:35:38 ID:???

「なにをしてるのですか?」

仕方ないのでしばらく学校の中で時間を潰そうかと思った時、背後から声がかかる。
振り向くと座玖屋が目を丸くして立っていた。

「あぁ、あれがね」

俺が校門の方に目線を送ると座玖屋は「はぁ」と不思議そうな顔をする。

「あの方達がどうかしたのですか?」
「え、ウザくね?」
「うざくね?」
「あー……あそこ通るの嫌だなぁ〜、って」
「はぁ」

帰国子女には最近の若者言葉はいまいち伝わりにくかったようだが、
それ以上にあれをウザイと感じる神経がこの子にはないのかもしれない。

「でしたら、迎えを来させますので一緒に乗っていきますか?」
「え、マジ? 三浦さん? いいの?」

突然の申し出に俺は戸惑うことなく喜び、ジニは「三浦さんって誰?」と困惑していた。

267 :ニコフ川д゚) ◆nikov2e/PM :2008/09/10(水) 00:37:51 ID:???
さすがご令嬢
報道陣をばったばったと跳ね飛ばすんですね!

268 :まりあ ◆BvRWOC2f5A :2008/09/10(水) 00:41:28 ID:???
「早ければ15分ぐらいで来られると思うので、それでもよろしければ」と座玖屋。
「おぉ、ありがたい。お願いします」と俺。
「え? でも……」とジニ。ノリ悪いこの子。

人の好意は素直に受け取るべきだと正当化して、俺は遠慮しようとしていたジニを軽く説き伏せる。

俺達は一旦校内に戻った。
それから座玖屋がジニに携帯を貸りて家に電話し、三浦さんが迎えに来るまでの間
校門が見下ろせる2階の渡り廊下に移動して、他愛もない話をしながら時間を潰した。
その間、誰もサチコさんのことを口にはしなかった。


   ◆


座玖屋の言った通り15分ほどで三浦さんはやってきた。
偉そうな……もとい例の高級な外車がマスコミ陣の間を割って校内に入ってくるのが見えたので
俺達は話を中断して再び外へ向かう。

「ありがとう、三浦」

外に出ると玄関の前に車は停まっていて、三浦さんは既に車外に出て俺達を待っていた。

「あ、こんちはー。すいませェーん」

機械のような正確な動きで頭を下げる三浦さんに俺とジニも慌てて挨拶。
座玖屋が樹種席に乗り、三浦さんが後部座席のドアを開けてくれたので
俺とジニも一礼してから乗り込んだ。

269 :ニコフ川д゚) ◆nikov2e/PM :2008/09/10(水) 00:44:19 ID:???
外車の車外

270 : ◆K.tai/y5Gg :2008/09/10(水) 00:45:54 ID:???
走車の車窓

271 :まりあ ◆BvRWOC2f5A :2008/09/10(水) 00:46:49 ID:???
「お二人のご自宅はどちらですか?」

助手席から座玖屋が振り返る。
俺はジニと顔を見合わせてから遠慮してるふりをして当たりの出ない自販機までの
道順をおおまかに伝えた。
三浦さんは振り向きもせずハンドルを握って前を向いていたが、
座玖屋が「三浦、お願いね」と言うと三浦さんは「かしこまりました」と仰々しく返事をして
ゆっくりと車を発進させた。

俺とジニは校門を通過する時になんとなく顔を伏せたが、座玖屋は堂々と前を向いていた。
やっぱり感覚が違うのか? と、思ったその時、俺は視界の端に捉えたものに違和感を覚える。

それは、校門を過ぎてすぐにあるバス停の前に立っていた制服姿の女の子だった。

一瞬だったがとりあえずウチの生徒じゃないというのは一目でわかった。
制服が違ったからだ。

車はあっという間にバス停の前を通過し、俺が振り返った時にはもうその子は
人差し指ぐらいの大きさになっていて顔はわからなかった。

なんであの子はこんな時間に、あんな場所にいたのだろう。
これが朝早くならまだわからないでもない。
どこかの高校の生徒で、バスに乗って通学するんだろう、と誰だって思うはずだ。
しかし普通の学校は今頃授業の真っ最中なはず。

272 :ニコフ川д゚) ◆nikov2e/PM :2008/09/10(水) 00:47:40 ID:???
何者だ!?

273 :まりあ ◆BvRWOC2f5A :2008/09/10(水) 00:51:37 ID:???
「どした?」

ジニが訝しげに俺の顔を覗き見る。

「いや別に」

そうだそうだ。
いや別に、ってカンジだろ。
あの子は何か理由があって今から登校することになっただけなんじゃないの?
家出る直前に弁当が爆発したので作り直してたとか。ねぇよ。
まぁともかくただの遅刻学生と考えるのが妥当だろう。

──普通なら。

もしこれが1週間前で、授業サボッてサトチーのチャリ勝手にパクッて近くのコンビニまで
行く途中だったなら俺はきっとそう結論付けていたに違いない。

だけど今日という日にこんな出来事があったなら、予感めいたものを感じずにはいられない。
それが何なのかはさっぱり見当もつかないし、ほんとにただの遅刻してる人だってことも
大いにあり得る。むしろそっちの方がありまくりだろう。

だけど。


「あ、あれです」

少し身を乗り出して当たりの出ない自販機を指さしながらジニがおずおずと三浦さんに告げると、
車は徐々に減速し自販機の前で静かに停車した。

274 :まりあ ◆BvRWOC2f5A :2008/09/10(水) 00:55:56 ID:???
「ありがとうございました」
「ありがとござっした」

礼を言って俺とジニは速やかに下車する。
三浦さんは少し顔をこちらに向けて軽く頷いただけだった。
もしかして嫌われてんのかな? こういうキャラっぽいけど。

「ではまた……明日、はまだわかりませんけど、ごきげんよう」

俺が後部座席のドアを閉めると車はゆっくりと動き出す。
座玖屋が控えめに手を振ってくれたので俺は両手で振り返す。ジニはなんか会釈してた。


「ふう。さて、と」

ジニは伸びをして大きく息を吐く。
緊張してたらしい。

「帰ろか」
「おう」

やる気なく声をかけ合い、俺とジニは正反対の方向に向かって歩き出す。

「って、おい。どこ行くんだ」

数秒後に後ろから間延びしたジニの声。
振り返るとジニはぽかんと口を開けてつっ立っていた。

275 :ニコフ川д゚) ◆nikov2e/PM :2008/09/10(水) 00:57:11 ID:???
ジェノとジニの関係

276 : ◆K.tai/y5Gg :2008/09/10(水) 00:57:27 ID:???
誰だ

277 :まりあ ◆BvRWOC2f5A :2008/09/10(水) 00:57:42 ID:???
「なんで今来た道を戻るんだよ」
「忘れ物」

と、俺は何かを肩にかける仕草をしてみせる。
するとジニは自分の肩にかかってる鞄を一瞥してから呆れたように笑った。

「お前なぁ、気付けよ。帰る時に」
「まったくだよ」
「お前のことだから最初から手ぶらで来てたのかと」
「あ、ひでぇ。人を不良みたいに」
「優良ではないだろ」

そうかもね。
実際今日手ぶらで行ってたし。

「アホだなぁ。せっかくここまで送ってもらったのに」
「いや送ってもらってる途中に言うのも気が引けてさ」
「あー、わかる」

神妙な面持ちでジニは頷く。
よっぽど三浦さんの堅苦しいオーラが息苦しかったのだろう。

278 : ◆K.tai/y5Gg :2008/09/10(水) 01:03:28 ID:???
なんのフラグだ

279 :おいら名無しさんヽ(´ー`)ノ:2008/09/10(水) 01:04:56 ID:???


280 :まりあ ◆BvRWOC2f5A :2008/09/10(水) 01:05:05 ID:???
「つーわけで取り行って来るわ。ちゃんと真っ直ぐ帰宅しろよ」
「お前が言うな」
「じゃあの」
「だからなんで竹原やねん」


そして俺はジニと別れ、徒歩でさっきのバス停へ向う。

ジニには本当のことは言わなかった。
もしかすると、もしかするから。






281 :ニコフ川д゚) ◆nikov2e/PM :2008/09/10(水) 01:06:54 ID:???
じゃあの

282 : ◆K.tai/y5Gg :2008/09/10(水) 01:58:00 ID:???
木塚て

283 : ◆K.tai/y5Gg :2008/09/10(水) 01:59:58 ID:???
器用だけど意外と武闘派だと思ってた。似合わないけどね肉弾戦

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